こんにちは、tori1031です。
この本は異色作家短篇集の中でも特にSF色が強いと思います。
無限がいっぱい
ロバート・シェクリイ
- 作者: ロバートシェクリィ,Robert Sheckley,宇野利泰
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/05
- メディア: 単行本
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目次 ( 原題 )
- グレイのフラノを身につけて ( Gray Flannel Armor )
- ひる ( The Leech )
- 監視鳥 ( Watchbird )
- 風起こる ( A Wind is Rising )
- 一夜明けて ( Morning After )
- 先住民問題 ( The Native Problem )
- 給餌の時間 ( Feeding Time )
- パラダイス第2 ( Paradise Ⅱ )
- 倍額保険 ( Double Indemnity )
- 乗船拒否 ( Holdout )
- 暁の侵略者 ( Down Invader )
- 愛の語学 ( The Language of Love )
各短編 あらすじ・感想
グレイのフラノを身につけて
トマス・ハンリーが、その妻にえらんだ婦人との最初の出会いに用いた手段は、いちおう、ここに記録しておくだけのものがあるように思われる。とりわけ、人類学や社会学の研究にたずさわる人たちとか、猟奇趣味に熱をあげている好事家たちにとっては、見逃すことのできぬ事実といえるのだった。
好青年なトマス・ハンリーはロマンスを夢見ていました。夢みているのは彼だけでなく、皆がそうでしたが。
ある金曜日、どこにも寄る気になれずアパートに帰宅したハンリーの元にセールスマンが訪れます。
彼が売っているものは簡単に言うとロマンスで、ハンリーは数日それを試すことになります。
小型機械で指示をもらうんじゃそれはロマンスと呼ばないんじゃ…セールス側の商魂逞しいなあ。
最後のハンリーの気持ち分かる気がします。しっかし商魂逞しいなあ。
ひる
フランク・コナーズ教授の所持する土地に、あらゆる物質、エネルギーを吸収する地球外生命体のひるが現れました。吸収能力以上のエネルギーを与えれば退治できそうですが、検討や手続きをしている間にひるはどんどん成長していきます。何か手はないものか…
人類学の講義、物理・化学の勉強、六つの学会委員、一年に一冊本を執筆…教授すごすぎ。
その知識をいかしてひるへの対策をちゃんと考えるとこも偉い。そんないざというとき役立つような勉強がしたいですね。自分も勉強しないと…
将軍のやると決めたらやりきるっていうのは素晴らしいけど、時と場合によっては折れたり諦めたりすることも必要なんだよなあ。
監視鳥
殺人事件を未然に防ぐため、殺意に反応する機械の鳥を大量生産し、空に放ちました。機械学習を行うそれはだんだん殺意の定義がエスカレートしていき…
よくある(?)、ロボットの暴走に手をつけられなくなり人間が危機に瀕する話です。そうなることは知ってた。
苦痛をさっさと取り除きたいという気もわかりますが、最後の下りは学習能力ない人たちだなと思いました。
話は違うんですけどフィリップ・K・ディックの短編に殺戮のためにつくられたロボットがいたのを思い出しました。変種第二号だったかな。
風起こる
外では、風が起こりつつあった。だが、ステーションのなかのふたりには、考えることがあった。
地球から遠く離れた風の吹き荒れる惑星キャレラ、その観測ステーションで働くクレイトンは貯蔵タンクとステーションを繋ぐ水道管の修理に、プルートという頑丈な乗り物に乗り出ます。キャレラ人は今日の風はたいしたことにはならないと言っていましたが、どんどん酷くなっているような…?
クレイトンは死亡フラグ建てすぎだと思うの。それとも「仕事辞める辞める詐欺」の場合は逆に折ってることになるのかな?
時速70マイル(≒時速112.65km)以下にならない惑星をわざわざ観測しなくていいと思うのですが、偉い人の考えることはわからないです。
無風状態だと生きていけないけど、その星にばっちり適応する宇宙人の姿形がユニークです。
クレイトンがどう切り抜けるのか、はらはらしながら読みました。最後クレイトン達にとっては笑うところじゃないのに笑ってしまいました。
一夜明けて
昨夜は酒を飲みすぎく記憶がおぼろげ、目を覚ますと未開のジャングル(地球外)にいるというわけのわからない状況。危険な生物から逃れながら彼は昨晩の記憶を辿り、ついに思い出します。
――そうだ。こんな場所にいる理由は、
合法ドラッグ(ガチ)
働く必要は無い、娯楽に溢れている、でも自殺が増えている世界。
働きたくないでござるってよく言っちゃうけど、この世界は嫌だなあ。
先住民問題
反集団的な性質を持って産まれた主人公、集団から離れて生活すべく無人の星へ行きます。自然豊かな過ごしやすい星でのんびり暮らしますが、流石に人恋しくなってきた主人公。そんなある日、旧式の宇宙船がこの星に着陸します。
宇宙船から降りてきた人達に主人公は友好的に接しますが、彼らは主人公のことを先住民と決め付け、何かとつっかかってきます。
読んでるとき「あいつは話をきかないからな ( 某大天使 )」が何度脳内で流れたことか…
先住民問題で痛い目に合っていると知っても、彼らの相手の話に耳を傾けない姿勢にはげんなりします。ちゃんと主人公の説明聞けばいいのに。いっそ地球に戻ればいいのに。
主人公が彼らの思い込みを利用して立ち回ったり、最後に皮肉(?)を言っているところは痛快でした。
給餌の時間
グリフォンがとる唯一の食餌は、若い処女である。餌をあたえる時期は、一ヶ月に一回、そしてその管理には訓練が必要であって――
珍しい古本が好きな主人公は「グリフォンの管理と飼育」という本を見つけ、購入します。
管理と飼育について詳しい説明の書かれた本の終わり近くには、動物園に行く方法も載っていました。
グリフォンにはちゃんとお辞儀しないと…それはハリー・ポッターか。
短篇集の中で一番短い話です。鮮やかなオチです。
パラダイス第2
その惑星ステーションは、なにかを待ちうけるように、惑星の周囲を運行していた。
料理上手なハワードと機械の扱いに長けたフレミングの二人は商用に使えそうな無人の惑星を発見します。傍の惑星ステーションに明かりが点いていたため、人の死に絶えた惑星を調査した後でステーションも調査することになります。そこでフレミングは罠にかかり、ハワードは出口を塞がれてしまいます。
かれはわめいた。
「だれがこんなことをした? なぜきさまたちは、ステーションにあかりをつけたんだ? フレミングをどうしたんだ?」
読んでる間ずっと不安になる話でした。
ハワードのおなかはすいてないけど、安心するために食べるってのがわかるような…。
衝撃のラストって言葉がぴったりです。
これまた話は違うし舞台も違うのですが、ダールの「豚」を思い出しました。
倍額保険
主人公は時間旅行の倍額保険を利用して一攫千金を企みます。そのために過去を遡り目星をつけておいた自分に良く似た人間を探しますが、なかなか条件にぴたりと合った人物が見つかりません。現在から千年以上時間を移動してはいけない、けれどその時間の中には見つけられなかった主人公はそれを破ります。ついに見つけた人物と手を組む主人公、ようやく倍額保険を手にする計画が始動します。
これもまた(ry)、ドラえもんが未来の自分を呼んでのび太の宿題を終わらせる話を思い出しました。
「やろう、ぶっころしてやる」
「きゃあ、じぶんごろし」
ハイリスク・ハイリターンな話です。「発つ鳥後を濁さず」という言葉があってだな…主人公は二度と戻るつもりがなかったからだろうけど、だとしてももうちょっとうまく立ち回ればいいのにと思いました。
乗船拒否
フォーブズはその新任補充員に会ったわけではなく、また、会おうとも思っていなかったのだが、話をきいただけで、たくさんだというのだ。かれの説明によれば、それは個人的な問題ではなかった。かれの苦情は、純粋に、人種的な理由にもとづくものだった。
出発四時間前の宇宙船で、人種差別など残っていないような時代にフォーブズが人種的な理由から乗船拒否します。今更新任補充員を変更することも、フォーブズの代わりを補充することも、出発を遅らせることも難しい状態で、船長は船員達にフォーブズの問題についての話や意見を聞き込みます。
「人種差別などない!」って言ってる登場人物みんなが「○○人だから××だ」「○○人とは働けない」「○○人の考えてることはわからない」って言っちゃう世界。
文化の違いも歴史認識の差もあるしそんなもんですよね。差別は駄目だけど区別は必要だと思います。
暁の侵略者
この特殊なテクニックをもってすれば、たとえ異星人がどのような種族であろうと、またどのような敵意を抱いていようと、地球人はその新環境のなかで、戦いぬくことができるにちがいなかったのだ。
人口の増えすぎた地球を離れ、とある惑星に暁の時刻に着陸した若者。明るくなってから惑星について調べた結果、地球人の生存に適さないと判明します。
侵略を完了するのに、一時間以上はかけるわけにはいかない。
一人の異星人と遭遇した若者は、「特殊なテクニック」を用いて相手の心を侵略しようとします。
侵略が肯定されている嫌な世界です。住みづらそうな星を侵略せずに無人星を開拓しなよ…。
初めてこの戦闘を行っている筈の相手がやり慣れている事情が最後にわかります。侵略の攻防からこの終わりに辿り着くとは。
心と心の戦闘描写はなんでもありで面白いです。学校にテロリストが襲撃して来る系の妄想の参考にしてはいかがでしょうか。
愛の語学
彼女への愛を陳腐な言葉で語りたくない…。
正しく言葉にしたい青年は「愛の語学」の存在を知り、それを知る唯一の人物の元へ教わりに行きます。
草失礼。
地球に戻った青年の第一声がw
いや語学的にはそれがベストなんでしょうけどもwww
両者が理解してないと意味無いですよね。ってそこで終わらないのが流石。
句読点やひらがなが多くて少し読みにくいです。
収録作品のほとんどが近未来や宇宙を舞台にした話です。(例外に給餌の時間が挙がると思います)
ですので、近未来や宇宙ネタがSF好きな方にオススメしたい一冊です。