本の虫もどきは働きたくない

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【鈴木光司】アイズ【短編集】

こんにちは、tori1031です。

ホラーもの苦手なのに、怖いもの見たさでこの本を読みました。

アイズ / 鈴木光司

アイズ (角川ホラー文庫)

アイズ (角川ホラー文庫)

「リング」などが有名な著者の短篇集で、6月に映画化した話も含まれています。 ホラー成分は少ないと思います。

目次

  • 鍵穴
  • クライ・アイズ
  • 夜光虫
  • しるし
  • 杭打ち
  • タクシー
  • 見えない糸――あとがきにかえて

各短編 あらすじ・感想

鍵穴

事業が成功した友人の大石に招かれ、彼の新居の高層マンションに初めて向かった主人公。
その道中、主人公はこの場所にはかつて何が建っていたか等がなんとなくわかります。
初めてくると思っていたけど、昔住んでいた町と同じ名前だと思い出します。
三十六年前、浪人生だった主人公は四畳半の下宿にいました。
あの頃は大石ともう一人、鳥居という友人が傍にいました。

鍵穴から見えたものとは。
実際鍵穴から向こうを覗くことってできるんですかね。

心霊現象より人間の心の方が怖かったです。そんなに怖い話でもないですけど。

クライ・アイズ

高層ホテルの一室、女性の剥き出しの下半身が窓の外から見えるよう晒されていました。
彼女は縛られており、同室にいる男を無視した仕置きとしてそうされていました。

丁度そのとき、向かいのマンションの一室で囲っていた愛人が見当たらず、探していた男性が窓の外を見ました。…あの足、彼女に似ているような。

××は嗤う。
タイトルだけ見て映画でやる話だと思いましたが、そんなことはなかったです。
勘違いの連鎖、または身から出た錆?
一番可哀想なのは巻き込まれたホテルの男だと思っていましたが、女性の恨みを買った中の一人とすると仕方ないかも。

夜光虫

ナイトクルーズに乗った、密かに再婚を考えている男女。
女性が船のトイレを使っていると、白い玉が一つ水に混ざって流れていきました。
ビービー弾を連想した彼女は娘がそれを昔拾い集めていたことを思い出します。
ふと彼女は、一時間前に港に寄った後は娘を一度も見ていないことに気付きます。慌てて乗船者全員で娘を探しますが…

話の流れは違うんですが、船に乗っていたせいか「夢の島クルーズ」に似ているなと思いました。
ビービー弾懐かしいですね。拾い集めはしなかったですが通学路によく落ちていました。

しるし

母は顔立ちが自分に似ている弟は可愛がっているけど、父親似の主人公にはあまり優しくありません。
母や祖母は父を馬鹿にしているけれど、主人公はやるときはやる父を隠れて応援しています。
そんな家族五人でマンションに居心地悪く暮らしています。

朝刊をとりに玄関へ向かった私は扉の向こうに人の気配を感じます。
戸についた魚眼レンズを覗き込むと、誰かが横切り、肌が異様に白い人の横顔が映りました。
次に覗き込んだとき、戸の開く音もエレベータの音も足音さえ聞こえなかったのにその人物は姿を消していました。表札に赤い「F」の字を残して。

こっちが映画アイズの原作でした。イイハナシナノカナー? …これでホラー映画、ホラーではないと思ったのですが。
でも「仄暗い水の底から」のときみたいに継ぎ足せば良い感じになるのかな?
…仄暗い、ほとんど見たことないですけど。

お父さん可哀想。

残念な出来の映画のワンシーンに登場した廃墟、それを見た主人公の目に、思い出すことさえなかった幼い頃の光景がよみがえります。
幼少時代に住んでいた場所の風景は憶えていたものの、母は住んでいた場所は全く違う場所を言うし、周りの誰も地名を教えてくれなかったので、見に行く事が叶わなかった光景でした。
これまでの記憶にあやふやな点が多い主人公は、その廃墟に向かう事にしました。

スクリーンを通して廃墟を覗き込んだ?
不自然な点を抱えたまま読み進め、最後で納得したり解せなくなったりしました。 解せないというか、数字が合わない気が。

主人公の願った最後の一文が悲しいですし、周りが何故知らせなかったかを考えるとまた…。

杭打ち

ゴルフと女をこよなく愛する主人公は、綺麗な面と汚い面とで二重人格自者のように生きてきました。
一番ホール、ボールが池ポチャしたか確認した主人公の目に奇妙なオブジェが映りました。
池の中には白い物体に刺さる銀の棒が天を向いて…その白い物体は物ではなく、白ずくめの人間の死体でした。

不可解な死体であったにも関わらず、翌日の新聞にそのことは一切載っていませんでした。
好奇心を満たす為、情報をマスコミに売れるか確認するために主人公は調査を始めますが…

誰だって悪い部分は隠して生きているのだし、そこまで悪人じゃないだろうと思っていました。
彼の扱った商品一覧を読んでその考えは誤りだったとすぐわかりました。

主人公はもっと物事を穏やかに解決する努力をした方が…。
でもうっとおしい物事からさっさと離れたかったなら仕方ない?
いやでもそうなったそもそもの原因が主人公の行動…駄目だフォローできない。

タクシー

急な雨に降られ、その気はなかったものの主人公はタクシーに乗り込みます。
行き先を告げる前から走り出した運転手の顔を確認しようとバックミラーを覗き込みましたが、角度が悪く全く見えませんでした。 トンネルを抜け、二つ目の交差点で信号が変わったとき、運転手の携帯電話が鳴り響きました。
それを聞いた主人公は、一週間前に携帯電話のせいで起きた自動車事故を連想します。

これさえなかったら。
たまたま手に取った自身の携帯で、事故で亡くなった大好きな人の無くなった携帯へ電話をかけてみました。
聞こえてきたのは彼の声の留守番電話サービス。
それを聞いて主人公は彼と出会ってから一週間前の事故が起こるまでの日々を回想します。

浮気さえなければイイハナシダナーって言うのになあ。

事故が起きたのは主人公だけのせいじゃないのだから自分を責める必要ないよ、と思いつつ
全く同じことを自分も経験したら、自分は悪くないって考えられないよなあ。難しい。

ときは織田信長今川義元を討ち破った頃の戦国時代。
足軽頭の吉松は仕えていた主君が櫓の上に陣を構え、捨て身で戦うべく梯子を落としてしまいました。
戦が始まると助かる道はほとんどなく、吉松は念仏を唱えながら死ぬのを待ちました。
城が落ちたようだけれどもうどうでも良い…あまり楽しい事などない人生だったなあ。

時代が進み1947年、夫を亡くし、再婚先で姑達から苛められ続けた妙子が死ぬしかないと首を吊りました。
彼女が自殺に選んだのは奇しくもかつて櫓のあった場所でした。

そして1999年。町営アパートにて怪奇現象が起こります。
…もちろんこのアパートは櫓のあった場所に立てられています。

え、桶狭間?え?…と、突然の歴史小説に混乱したのは私だけでいいですはい。

けっこうがっつりあらすじ書いちゃったかなと思いましたが、現代になってからが本番と思うのでこれで…
ネタバレと思われたらすみません。

読んでいて、唯一自由に使える選択肢が「今自分で命を絶つか否か」しか無いんだなと気付きました。

5章?のある人物の考え方が苦手でした。
自分も他人を羨んだり妬んだりする部分はありますが…筋違いの憎悪。これはひどい
自分の汚い部分を濃縮してそこに余計なものを加えた像を見た気分になりました。

見えない糸――あとがきにかえて

著者の体験談と、怖い話の作り方が書かれています。

仄暗い水の底から」は経験を脚色して使ったと知っていましたが、その経験談が読めて満足です。

日常から話の種を見つける観察眼や想像力が必要なんだろうなと思いました。


覗き込む話、ホラーと見せかけてそれだけじゃない話が多かったです。
個人的には「浮気、駄目ゼッタイ」と思っているので肯定的・実施中な人物多かったのがしんどかったです。

「檜」が一番好きな作品でした。 がっつりホラーが読みたい人には足りないかもしれませんが、ホラー以外の要素も面白いのでそれでも読むことをおすすめしたいです。