こんにちは、tori1031です。
ジェラルド・カーシュの短編集を読みましたのでその紹介を。
廃墟の歌声 / ジェラルド・カーシュ
- 作者: ジェラルドカーシュ,Gerald Kersh,西崎憲
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2003/11/01
- メディア: 単行本
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パン屋、銀行員、用心棒にレスラー…著者は様々な職を経験されている方です。
すごいですよね…その頃の経験から生まれた話も多々あるそうです。
(カームジンにモデルがいるってのも驚きです)
私が読んだことがあるのは
天才的な犯罪者、あるいは世界一の大嘘吐きの語った様々な物語が詰まった「犯罪王カームジン」シリーズと、
奇妙な形の瓶に入っていた紙切れにまつわる「壜の中の手記」が表題の短篇集です。
今回の短編集「廃墟の歌声」は、その2つを足して2で割ったような話のラインナップです。
カームジンが出てくる話は全て「犯罪王カームジン」に収録されていますので、
この短編集を読んで、気に入ったら「犯罪王カームジン」を読むと良いと思います。
すでに読んでいる場合は…再読すれば良いんじゃないかな(
目次
* 廃墟の歌声
* 乞食の石
* 無学のシモンの書簡
* 一匙の偶然
* 盤状の悪魔
* ミス・トリヴァーのおもてなし
* 飲酒の弊害
* カームジンの銀行泥棒
* カームジンの宝石泥棒
* カームジンとあの世を信じない男
* 重ね着した名画
* 魚のお告げ
* クックー伍長の身の上話
各話 あらすじ・感想
廃墟の歌声
古代都市である廃墟アンナンの調査に来ていた主人公。 近くに住んでいた原住人にアンナンへの案内を頼むも、 彼らは「死の土地」「暗黒の土地」と呼んでいる其処へ近づきたがらず、主人公には行くなと忠告します。
何がそんなに恐ろしいのかと聞けば、彼らは「小さい人間」が恐ろしいといいます。 警告を無視し、廃墟へ訪れた主人公が目にしたものは…
☆
主人公はよく真実に気づけたなあ。と素直に感心しました。 と同時に「小さい人間」の経緯も、主人公の結末も可哀想でした。
忠告を無視したのが悪いって言われるとそれまでですけど、でも主人公は仕事だしなあ…。
乞食の石
埃や草だらけの平原に、ぽつんと置かれた古い石がありました。 その石の形はだいたい直方体で、かつては広い面が下になっていました。 しかし今は狭い面が下になっているため、自重で地面にめり込んでいました。
様々な名前が刻まれたその石は、平原を彷徨う乞食たちに寄りかかられ、すり減っていました。 そんな「乞食の石」と呼ばれていた、そんな石にまつわるお話。
☆
なんとも皮肉な。
「あらゆる可能性を疑え」とはいうけど、でもこれは想像できないよなあ。
無学のシモンの書簡
手紙の内容はこうでした。
シモンは宣教中、辺境の荒野で「荒々しい人々」から暴行をうけ、死にかけてしまいます。 一命をとりとめたものの、気を失ったシモン。 その後目覚めた彼が目にしたのは、自身を介抱してくれた一人の老人でした。
シモンは老人に感謝し、彼にも教えを説こうとしますが、頑なに拒絶され…
☆
これは新約聖書を読んでおくとより楽しめます。 聖書後半にある「○○の手紙」と雰囲気が同じですので。
聖書って「聖書には正しいことしか書くことができない」はずなんですが、AさんとBさんの記述で違うことがあるんですよね。
その辺りは「解釈の違い」であってどちらかが正しくないということにはならないそうですが。
シチュエーションは違うんですけど、「志村ー後ろ後ろー」の気持ちになれましたw
一匙の偶然
主人公が訪れた北部のレストランは、横柄な態度のウェイターに残念な料理と、がっかりな店でした。 ウェイターから放り投げるよう渡されたスプーンは、店に似合わず上等なもので、柄には「ジーノ」とサインが刻まれていました。 そのサインは、主人公と仲の良かったレストランのオーナーのものでした。
「亡くなったオーナーは善い人でしたよね。彼とはツケがきくくらい仲が良かったんですよ」
この言葉を聞いたウェイターの態度は良い方向に急変。料理も新しいものを用意してくれることに。
ウェイターと話しているうちに、心の広いジーノから店を出禁になった客が二人いた話に移ります。
☆
偶然(偶然とは言っていない)
いや、ある人物の行動が故意だっただけで残りは全て偶然なんですけども。
偶然というより因果応報というか、なんというか。
出禁になった女性の方に、あまり同情できませんでした。
育ちと過去にあった出来事のせいであの性格なんでしょうけども、それって警告してくれた人たちを無視してきたってことなんじゃないかなと。
プライドが高すぎて人の親切も受け取れない、ジーノとの最後のやりとりにも反省した様子が見られない…
プライド高いと損だよなあ。謙虚に生きたいな。
盤状の悪魔
ボロくて、壁に穴がいくつも開いているような安いアパートを利用している主人公。 青白い顔をした憂鬱そうな男にアパートを紹介すると、彼は早速アパートを間借りしました。 男の借りた部屋はは主人公の隣室にあたります。
男の唯一の荷物の・大きな黒い旅行カバンは、彼の重そうな運び方に反しとても軽く、後で壁の穴からこっそり覗いた結果、中身は象牙製のチェス盤だと知ります。
☆
日本の版画(浮世絵?)みたいな顔って。いやわかりやすいけれども。
知り合ってすぐの人間だったといえ、ちょっとは耳を傾けても良かったんじゃないかな。
と思うのは私が追い詰められていないからなんだろうなあ。
肉体的にも精神的にも疲弊していているときに、冷静になるなんて難しいですし。
幸福で完璧な私が正しい。故にあなた達は間違っている。
ミス・トリヴァーのおもてなし
ドクター、腹を割って話しましょう。ひとつ、教えて下さい。 ぼくは神経衰弱だったせいで、あんなものを見たんでしょうか? それとも、実際にあんなものを見たから、こうして神経衰弱になったんでしょうか?
主人公がうけた「ミス・トリヴァーのおもてなし」とは…?
☆
この引用した部分好きです。
主人公が酔っ払ってホラーの風潮について熱弁したあとの、ミス・トリヴァーの発言が刺さります。
そうだよなあ。子どもだった頃のことを忘れるから、「最近の子どもは」って言っちゃうんだよなあ。
最近の若者批判はそれとは違う気がする。
飲酒の弊害
精神分析学・心理学を理解したつもりになっている医者にはうんざりしている。
けれど「心優しい皮肉家」と呼べるドクター…仮にアルムナとしようか。 アルムナは自身を無知と認め、あらゆるものを信じ、そして懐疑的にあたる。 「理解したふりはできない」と言う彼は立派だ。
さて。理解したつもりの連中やアルムナが集まり、症例について論じ合っていたときのこと。 ある開業医が自分の扱った「交感苦痛」の症例について話した。 すると、アルムナはそれより驚くような「交感苦痛」を患う二人の兄弟がいたと言い、彼らの症例について話し始めた。
☆
交感苦痛 :Aさんが怪我をしたとき、遠く離れた場所にいるBさんが痛みを感じたり傷を負ったりすること。
キリストが磔刑のときに負った傷が信者に現れるやつ、聖痕を思い出したけど別物でした。
相手が嫌・危ないとわかっているのに、自分の快楽優先でやりたいことやる人間にはなりたくないな。
カームジンの銀行泥棒
いったいカームジンとは何者か? 彼の語った話が真実なら、史上最大の犯罪者だ。嘘っぱちなら、史上まれに見る大ほら吹きだ。 この2つにひとつだが、どっちなのかは私にもいまだにわからない。
完全犯罪に懐疑的な意見もあると主張する主人公と、完全犯罪は存在し、実際に行ってきたというカームジン。 証拠だってある、と言ってカームジンが示したのは古い銀行通帳。 そこから彼は、かつて行った銀行泥棒の話を自慢気に語ります。
☆
完全犯罪(ただし失敗はする)
カームジンの宝石泥棒
宝石に目がないと言うカームジン。 買ったのかと尋ねる私に、正しい入手方法は盗むことだと豪語するカームジン。 ある未解決事件を挙げ、それをやったのは自分だと言った彼はどのように宝石泥棒をやり遂げたのか語ります。
☆
カームジンシリーズで一番好きかも。
アンジャッシュのネタを思い出しました。
カームジンとあの世を信じない男
カームジンから聞いた話をもとに小説を書いたところ小銭稼ぎに成功した私。 カームジンは自分の話してやった話に「史上まれに見る大ほら吹きか史上最大の犯罪者」と書かれたことに腹を立てます。
全て真実だと主張するカームジン、それでも信じられないと伝える私。
「こんちくしょう!」カームジンはそう吐き捨てたあとで、にっこりとした。薄気味悪いほど柔和な笑顔だった。「しょうがない、きみはまだ若いんだから」彼はため息をついた。「若さゆえの愚かさだ。以前にもいたよ、きみのような懐疑論者が」
そう言ったカームジンは、かつて休養のために静かな土地を訪れたときに出会った
『きみのような懐疑論者』の話をします。
☆
この話と、これの続きだけは「もしかしたら実行できたんじゃ…?」ってなれません。
他の人を思い通りに動かすのも難しいのに、ましてや彼らが相手では無理でしょう。
全部うまくいく、なんてありえないのに。
重ね着した名画
オーバーコート(上着)の話から、中古のキャンバスにオーバーコート(絵の具を重ねて)した話を聞くことに。
中古のキャンバスをポール・ゴーギャンが描いた絵ということにして、金持ちに売りつけ…
…ただけでは終わりません。
彼は一体、どんなオーバーコートを行ったのでしょうか。
☆
善人がいない。
魚のお告げ
ウェールズの谷間の酒場にて、私はちょっとしたことでウェールズ人達を怒らせてしまいます。
(彼らにとっては地名を省略することは、ちょっとしたことではなかったのでしょう)
宿場も兼ねていたその店でとっていた自室に引っ込む私のもとに、 宿場の女将さんから私を気に入ったというグリフィス・グリフィス博士を紹介されます。
「アーサー王伝説」マーリンの湖があるとされるオールド・プライオリに住んでいるという博士。
宿場に置いてあった本の一文から、博士が喋る鯉を捕まえ、
その鯉から始まったあるもの、ある場所の話に。
☆
あらすじうまくいかないな。
グリフィス博士の言う「私はこういう人間だから」と「そういう人たちとは違う」はあてにならないです。
ですが、みんなそういう一面持っていますよね。もちろん私も。
「彼らと同じと思われたくない」 「自分の優れているところを相手に伝えたい」
良く見られたい一心で、違うことや誇張したことを言ってしまうくらいなら初めから…
…そういったところは本編と絡まないんですけどね。
クックー伍長の身の上話
第二次世界大戦時、スコットランドからアメリカのニューヨークに向かう船の上。
14,000人もの男と数人の女が乗り込んだクイーン・メアリ号で、当時従軍記者だった私はクックー伍長に出会いました。
ニューヨークに着いた騒ぎの中見失った伍長を探している私は、伍長を取材したときのことについて語り始めます。
その男は「この傷でよく生き延びられたな」と思うほどの古傷を持ち、35歳くらいに見えました。
私のスコッチで酔っ払った彼は、私の質問にずれた返答を行います。
どう考えても生まれる前に起きた出来事だというのに、16世紀のフランスに生まれたと自称する彼はまるで経験しているように話すのです。
☆
グロ注意っちゃグロ注意かもしれない。
クックー伍長と同じ状態になったとき、彼のように生きることはできないだろうなあ。
前も何かの感想で書いた気がするけれど、自分はすぐ諦め、妥協する人間なので。
と、ここまで感想書いておいてあれなんですけど
彼には「諦める」って選択肢が与えられていないのではと思い直しました。
「にげる」コマンドがない状態でダンジョンを延々迷っているような感じ。
普段なら諦めない人を見て「羨ましい」「尊敬する」って思うんですけど、今回は「可哀想」と思いました。
短編とカームジンがいい感じに入っているので、
「カーシュの作品ってどんな感じだろう」って人におすすめしたいです。
(もちろん、カーシュを知っている方にも)
どうでもいいけど、表題作を読み終わるまでタイトルを「廃墟の歌姫」だと思っていました。なぜに。