本の虫もどきは働きたくない

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【弱者勝利】どんがらがん【奇想コレクション】

おはようございます、tori1031です。

ゲームがイベントラッシュで嬉しいような、時間の使い方間違っているような…

えと、奇想コレクションからこの本を。

どんがらがん / アヴラム・デイヴィッドスン

世界幻想文学大賞ヒューゴー賞エドガー賞…他にも色々受賞しており短編小説の名手だったそうです。

目次

  • 序文
  • ゴーレム
  • 物は証言できない
  • さあ、みんなで眠ろう
  • さもなくば海は牡蠣でいっぱいに
  • ラホール駐屯地での出来事
  • クィーン・エステル、おうちはどこさ?
  • 尾をつながれた王族
  • サシェヴラル
  • 眺めのいい静かな部屋
  • グーバーども
  • パシャルーニー大尉
  • そして赤い薔薇一輪を忘れずに
  • ナポリ
  • すべての根っこに宿る力
  • ナイルの水源
  • どんがらがん

各短編 あらすじ・感想

序文

元妻による序文です。

関係ないけど、離婚した人の「離婚しているけど関係は良好だし付き合いもある」って言葉を聞くたびに不思議な気持ちになります。

ゴーレム

秋の昼下がり、ガンバイナー老夫婦の住む通りに奇妙な人物が現れました。
灰色の肌を持つその人物は、陶器の歯を見せてこう言いました。

「この私がだれであるかを――いや、何者であるかを――知れば、あまりの恐ろしさにおまえたちの肉は溶け、骨から剥がれ落ちるだろう」

タイトルで何者かわかる件について

老夫婦の日常トークと男の非日常語りのちぐはぐさが楽しい小説です。
おじいちゃんかっこいいです、っょぃ(小声)

物は証言できない

奴隷が売買されていた頃の話。
弁護士兼奴隷商を25年続けてきたベイリス老人は、職業柄・人柄から町の皆に嫌われていました。
そんな彼が売った奴隷がきっかけで転機が訪れます。

読み終わって「ざまあ」ってならずにもやっとしました。
いかに老人が汚いやり方をしていたとしても、やり返し方が気にいらない…。

さあ、みんなで眠ろう

ガス抜きと称され行われた虐殺により、ヤフーと名づけられた人に似た種族は滅びかかっていました。
ヤフーに対する非人道的な行為を嫌っており、このまま彼らを滅ぼしたくない主人公は協力者とともに行動を起こしますが…。

舞台は宇宙です。

最後タイトル回収した瞬間どうしようもない気持ちになりました。
主人公は動物や種族が滅びたのを知ったときに悲しい気持ちになっていましたが、小学生の授業で絶滅した動物について調べたときの自分もこんな気持ち味わってたのかなあ。自分のことなのに思い出せません。

さもなくば海は牡蠣でいっぱいに

本の虫なファードと女好きのオスカーは自転車屋を共同で経営していましたが、三ヶ月前からオスカーが一人で経営するようになっていました。

「でも……ほら……言われて見るとたしかに……探しているときには、安全ピンって絶対に見つからないものだな」

ありえない出来事が起こった後、ファードはある恐ろしい考えに至ります。

SANチェック失敗 → アイデア成功 → 一時的発狂
こうですか、わかりませんねすみません。
思考停止は悪いこと、でも考えすぎてもろくなことにならないのでしょうかね。

しかし、これはオスカーが悪いなあと思いながら読みました。
いやファードも自己完結?する部分とか問題はあったけども。 でもオスカーは自転車借りるのも乗せようとしたのも悪かったです。

ラホール駐屯地での出来事

物書きにイギリスへ来ていた主人公は、冬の夜の寒さをしのぐべく酒場へ向かいます。
そこに常連らしい人気者の老人がやってきて、「ラホール駐屯地での出来事」について語ります。

話の基になっているのはラドダード・キプリングの「ダニー・デーヴァー」という詩だそうです。 知っているともっと楽しめるかもしれません。
私は知らなかったので読み終わって解説読んでやっと最後のやりとりがわかりました…

クィーン・エステル、おうちはどこさ?

クィーン・エステルは南国の出身、ただでさえイギリスの冬は寒いのに下宿先ではそれをあまりしのげません。
下宿先から離れたライディ家で家事をするのが彼女の仕事です。
旦那様と彼の弟(坊っちゃん)はエステルと普通―むしろ友好的―に接しますが、奥様は坊ちゃんのことでやたら彼女につっかかってきます。
そんな奥様はエステルを辞めさせる口実を得ようと、無断でエステルの荷物をあさりますが…。

奥様が元々あった問題をエステルのせいにしたり、可哀想な私アピールをしているので多いきり「ざまああああ」できました(酷い感想)

いやまあ、途中までは「嫌な奴だけど過保護すぎるだけかな」でなんとか無理やり済ませられるかもしれないんですけど

クィーン・エステルが二階の敷物に掃除機をかける準備をしているとき、奥様が部屋の戸口に現れ、目もとにハンカチを当てながらいった。「ねえ、わたしはけっして信心深い人間じゃないわ。でも、いまふっと考えたの。わたしが子供を授からなかったのは祝福だったって。それには不向きだと、神さまがお考えになったからよ。どうしてだかわかる?自分の生活をうっちゃってまで、子供につくそうとするからなの。ちょうどいまのわたしが、義父の子供のためにそうしてるようにね。(以下省略)

ここ読んで、そんな気持ちは露と消えました。

尾をつながれた王族

尾をつながれ自由に動けない王族達、そんな彼らに口を使って水や食料を運ぶ一つ目たち、彼らが必要以上に交流しないように目を光らせる見張り達。
王族達は見張りの目をかいくぐり、一つ目の一人に何かを伝えようとしますが…

存在しそうでしない動物を擬人化したらこんな話になりました、みたいな話…だと思います。

「おまえの口のなかにあるのは嘘だけだ。さあ、とっとと失せろ!」

見張りのこの台詞が好きです。

サシェヴラル

暗く、寒く、悪臭漂う閉め切った部屋の中には乱暴者のジョージと非力なサシェヴラルがいました。
ジョージはサシェヴラルから手に入るはずの100万ドルのことで苛立っており、サシェヴラルはジョージに捕まり自由を奪われたことを嘆いていました。
サシェヴラルがかつて行われていた楽しかったお茶会について話したり、ジョージがサシェヴラルをある理由で脅したり…

ラスト、つまりどっちだってばよ。
どっちとも取れるってことで良いんですよね?自信が無い…。

サシェヴラルの話に出る人たちを「あの職種かな?」とのあたりをつけて読んでいたので、当たっていたとき嬉しかったです。
こういう勘をもっと日常に生かせれば良いのですが…うまくいかないです。

眺めのいい静かな部屋

養老院(老人ホーム?)で生活するリチャード氏は、同室の住民達が悪気無く起こす騒動で毎晩眠りを妨げられていました。
同施設で生活しているハモンド氏との会話中にうたた寝してしまい、これは若かりし頃、ジャングルで過ごしたときの癖だと言って誤魔化します。
その場にいた人々はリチャード氏の話に興味を惹かれ、先を促すのですが、
ハモンド氏だけは彼の経歴を非難し、つっかかります。

登場人物が老人ばかりで、面白くなさそうだと思ったらそんなことはなく、がっつり面白かったです。
ラストはヤンデレで…いや違う違う。でもまああの発想の飛躍は病んでるような。
でも睡眠不足で疲れていたんだろうなあ。…素質も絡んでいるでしょうけど。

グーバーども

不潔で、他人を利用し自分は楽をする老害老人に育てられている主人公は、彼に反発するにはまだ幼く、言いなりになってきました。
盗みをしてこいと言われることもあり、嫌がる主人公への脅し文句にあるときから「グーバー」という単語が出てきます。
言う事を聞かなきゃグーバーどもに売りつけてやる。
グーバーが何かわからず、教えてももらえない主人公はグーバーを怖がりますが…

狼老人。

「いい子にしてないと鬼が来るよ」だとセーフで、「言う事聞かないと鬼が来るぞ」だとアウト。
いやまあ、そういう話ではないんですけどね。

意地悪な老人に使われる子供の話ってだけで「俗世の働き手」を思い出しましたけど、老害悪人ぷりが違いました。

パシャルーニー大尉

父を知らずに育った少年の通う学校へ、トンプスン少佐と名乗る紳士が訪れます。
少年は先生に呼び出され、少年は自分の父親が立派な人物だと知り喜びます。

その後少佐は少年を育てている親戚のもとへ挨拶に向かった後、少年と二人で過ごします。

パシャルーニー大尉は少佐が少年にした話の中に出てきます。

いつ少佐の化けの皮がはがれるのかわくわくしながら読んでいた自分は、もっと人を信じる心が必要だと思いました…。
いやでも、あからさまに「私は善人です」って登場人物いたら疑いません?

救いがあるようなないような。
そういう話じゃないと言われそうだけど、私はそう感じました。

そして赤い薔薇一輪を忘れずに

チャーリーの雇い主は彼に罵声を浴びせ暴力を振るうろくでもない奴でした。
チャーリーがいつものように疲れて帰ってきたある日、同じ建物(集合住宅?)に住んでいるアジア系の男性が困っているのに遭遇し、男性に手を貸しました。
男性は感謝し、自宅で始めたという本屋へチャーリーを連れて行きます。
珍しい本ばかりでしたが、支払いが面倒で高価なものばかり…。
その中に一冊、チャーリーを惹き付ける美しい本がありました。

本の値段聞いて展開を「あっ(察し)」していたら、本当にその通りになりました。

本欲しくなる気持ちも対価選ぶのも分かるけど、買う勇気はないなあ…。
でも同じ境遇で、実際に本見たら私もそうしちゃうのかなあ。
いやでも【ネタバレ】するのは簡単にはいかないし失敗したら危険だし、成功しても物を運ぶのが、いや運ぶ準備から大変だよなあ。
やっぱり労力に見合わないので溜息ついて諦めます。…いや道徳的に考えて諦めろって話なんですけども。

ナポリ

いまから二十年ほど前、若くもなければ年老いてもおらず、醜くもなければ美男でもなく、明らかに金持ちには見えないが貧しくも見えないひとりの男性が、波止場を出て赤煉瓦の宮殿のそばを通り過ぎ、古ぼけたナポリの下町の雑踏のなかへと足を踏みいれた。

そんな男性(旅行者)にひとりの青年が近づき、こっそり何かを申し出ます。
旅行者はそれに応じたのか、青年を追い、路地の奥へ奥へと入っていきます。

パスタが食べたくなりました。ところでナポリタンはナポリの料理ではないそうです。日本産だそうです。言われてみれば他のパスタとは雰囲気が違いますよね。
ナポリ

…いやナポリってつければ雰囲気出るかなと思ってつい。

外国って独特の雰囲気ありますよね。そんな感じが味わえる話でした。
…外国、台湾しか行ったことないですけど。

すべての根っこに宿る力

穏健な警察官のカルロスは最近悩みを抱えていました。
体のあちこちの痛み、物が二重に見える乱視、それから…
医者に診てもらうも、診断結果に納得のいかないカルロスは怪しげな祈祷師のもとへ向かいます。

カルロスが悪人でないことが説明された後に、

それだから、周囲のみんながこの自分を見るや、突如として――ときには文字どおり一瞬のうちに――変貌して、おそろしくもまたすさまじい悪魔的な形相になるのはなぜなのか、カルロスには合点がいかない。

この文章が入ります。
被害妄想の一言で片付けるのは置いておいて、実際に自分がそんな目にあったらと考えると…しんどいですね。
大人しく家に引き篭もると思います。仕事?知らない子ですね。
いや無職なわけではなくて、そんなときに仕事なんてやってられないかなって。

カルロス視点の前半も、もう一人の視点に変わった後半も話は面白かったんですけど、
読んでいる間ずっと、カルロスが可哀想でした。

ナイルの水源

小説家のボブ・ローゼンは原稿を見せに行く度に「これじゃ今のニーズにあってないよ、今は~」と、流行りがどんどん変わっていきOKがもらえません。
帰りのエレベータで変わった老人に「話をしにきた相手があんたに時間を割いたせいでできなくなった。酒を奢れ、代わりに良い話を聞かせてやるから」といったようなことを言われ彼に奢る破目に。 酔いがまわってきた頃、老人は流行を前もって知ることができると話しますが…

これだから女は…って言いたくなる気持ちと、
いや彼女と情報管理を疎かにしたボブが悪いって気持ちとでもやっとしました。

でも最後のボブの姿勢は好きです。
自分はすぐ妥める性質なので。

どんがらがん

呪法が盛んな<カナラス国>の王子マリアンは、国を救う呪法を探し旅をしていました。
嫌いな人種が管理している土地で老人に食事を振舞う破目になった後、遠くからものすごい音がしてきました。
老人に頼まれて丘を登ったマリアンが見たものは、巨大な金属製の筒に車輪のついた何かを押したり引いたりしながら運んでいる集団でした。
あれは何だと尋ねるマリアンに、老人は怯えた様子で<どんがらがん>が運ばれているのだと答えます。

取説はちゃんと読まないと駄目だなあと思いました(小並感←今更)
多分未来の話なのに、昔話を読んでいるような気持ちになれました。

マリアンは傲慢だけど実力があり、悪知恵が働く割りに抜けている面があり…魅力的なキャラクターですね。

続編があるらしいのですが、そのあらすじが「これネタバレじゃありませんか?」ってくらい簡潔にまとめられていて…
それでも邦訳探して読むべきかなあ…。


大方好きな話でしたが、特に好きなのは

  • ラホール駐屯地での出来事
  • クィーン・エステル、おうちはどこさ?
  • 眺めのいい静かな部屋

の三つです。

最後の解説どおり「善人(or弱者)は幸福に、悪人は不幸に」といった話が多かったよう思います。
例外もありますが、そういう展開の話が好きな方は読んでみてはいかがでしょうか。