本の虫もどきは働きたくない

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【妄想暴走】虹をつかむ男【異色作家短篇集】

こんにちは、tori1031です。

異色作家短篇集から、一発変換だと「二次を掴む男」と羨ま違うタイトルになってしまったこの本を読みました。

虹をつかむ男 / ジェイムズ・サーバー

虹をつかむ男 (異色作家短篇集)

虹をつかむ男 (異色作家短篇集)

目次 ( 原題 )

  • 序文
  • 虹をつかむ男 ( The Secret Life of Walter Mitty )
  • 世界最大の英雄 ( The Greatest Man in the World )
  • 空の歩道 ( The Curb in the Sky )
  • カフスボタンの謎 ( The Topaz Cufflinks Mystery )
  • ブルール氏異聞 ( The Remarkable Case of Mr. Bruhl )
  • マクベス殺人事件 ( The Macbeth Murder Mystery )
  • 大衝突 ( Smashup )
  • 142列車の女 ( The Lady on 142 )
  • ツグミの巣ごもり ( The Catbird Seat )
  • 妻を処分する男 ( Mr. Preble Gets Rid of His Wife )
  • クイズあそび ( Guessing Game )
  • ビドウェル氏の私生活 ( The Private Life of Mr. Bidwell )
  • 愛犬物語 ( Josephine Has Her Day )
  • 機械に弱い男 ( Mr. Pendly and the Poindexter )
  • 決闘 ( A Friend to Alexander )
  • 人間のはいる箱 ( A Box to Hide In )
  • 寝台さわぎ ( The Night the Bed Fell )
  • ダム決壊の日 ( The Day the Dam Broke )
  • オバケの出た夜 ( The Night the Ghost Got In )
  • 虫のしらせ ( The Luck of Jad Peters )
  • 訣別 ( The Departure of Emma Inch )
  • ウィルマおばさんの勘定 ( The Figgerin' of Aunt Wilma )
  • ホテル・メトロポール午前二時 ( Two O'Clock at the Metropole )
  • 一種の天才 ( A Sort of Genius )
  • 本箱の上の女性 ( The Lady on the Bookcase )

各短編 あらすじ・感想

序文

1945年に出版された「サーバー・カーニバル」の序文です。
サーバーがどう過ごしてきたか、これからどう過ごす予定かが知り合い視点で書かれています。

実際には私はサーバーを五十年知っているわけではない。サーバーはこの前の誕生日で四十八歳を迎えたにすぎないのだが、この選集の出版社が、このような大作の序文の標題としては"五十"という数が"四十八"という数よりも響きがよいと感じたものであって、私は議論にくたびれて引き下がってしまったのである。

虹をつかむ男

ウォルター・ミティは黙りこくってウォーターベリに向かって運転を続けた。二十年の海軍航空史上、最悪の大暴風雨を突破するSN二○二号機の爆音はしだいに遠ざかり、彼の心の奥にひめられた空路のかなたに消えていった。

海軍飛行艇は大荒れの天候を進んでいく……
車を運転していたウォルターは妻の声で現実に引き戻されます。
彼は現実から継ぎ目なく繋がる壮大な妄想をよく起こします。

ところ構わずやっちゃうのは問題ですけど、読んでいて気持ち良いくらいの妄想っぷりです。

日常生活に支障が出ないくらいの妄想なら自由にしていいかなと思ってます。
寝る前の妄想は安眠妨害になるのでやめたほうがいいらしいですね。じゃあいつすればいいのさ

世界最大の英雄

リンドバーグやバードに続き、飛行機で偉業を成し遂げた男がいました。男はボロの飛行機で世界一周無着陸飛行を成し遂げ、英雄となりました。しかし人格や言動に問題があり、英雄像とかけ離れた彼の姿に政府やマスコミは困ります。

偉業は偉人じゃなくてもできるから仕方ないね。
すごいことやってのけたとはいえ男は傲慢すぎました。

空の歩道

人の言おうとしていた言葉を先取りして発言する癖を持っていた女の子。彼女は成長すると次第に相手の言葉遣いや話の誤りを細かいところまでつっつくようになりました。 過剰な指摘をしてくる彼女と話していたら苛立ったり、気が滅入ってしまいます。そこに気付かず彼女と結婚してしまった男性も案の定まいっているようで…。

ジョセフかと思ったらもっと残念でたちの悪いパターンでした。

カフスボタンの謎

オートバイに乗った警官が、だしぬけに神秘の国から(白バイの警官とはそんなものだ)、音高らかにとばして来たときには、男は道ばたの深々と生えた草の中によつんばいになって、ワンワンと犬のように吠えていた。女は、そこから八十フィートほど離れた所にとまっていた自動車を、ゆっくりと進めていた。

カフスボタンを探していたと言う男女には不審な行動が多く…。

四つんばいになってた理由に呆れたり、最後の男女のやりとりに呆れたり。
面白い話なんですけどね。

ブルール氏異聞

顔に特徴的な傷を持っていう以外は平凡な風采のブルール。彼は平穏な生活を送っていましたが、突如それは崩壊します。
暴力団員クリニガンとブルールと彼がそっくりだと言われるようになり、ブルールは彼と間違えられることを怖がるようになります。
たちの悪い悪戯をうけたり、クリニガンに動きがあったり…そうこうしているうちにブルールにある変化が起こります。

命を狙われるほどの悪人と自分がそっくりで、しかも自分の傍に潜伏している状況…これはSAN値も減りますわ。

マクベス殺人事件

ミステリ小説と間違えて「悲劇マクベス」を購入してしまったと愚痴る女性。それを読み終えた彼女は犯人はマクベスではないと推理を披露します。

それミステリじゃない。けど読むつもりだったジャンルと違うものを自分なりにって良いですね。
女性の推理、ミステリのメタが入ってて面白いです。

既読でした。 昔読んだとき「シェイクスピア読んどけば良かったなあ」と思ったのですが、シェイクスピア読まないまま再読…。

大衝突

トミーは十五歳のとき馬車馬の制御でミスをして以来、乗り物の運転を避けるようになりました。
結婚してトミーは自動車をこわごわと安全運転するようになりますが、 自動車でも運転ミスを起こし、それ以降は妻が運転するようなりました。
ある日、妻が怪我をしてトミーが車の運転を代わることになりますが。

大衝突。
あだながとみーだし車の運転苦手だしで、トミーの運転苦手意識に同意しながら読んでました。

142列車の女

汽車が遅れていて駅で足止めを食らっている主人公や他の客は、駅長が電話をかけているのを聞きます。

「手配の御婦人は、一四二号のリーガン車掌が乗せています」

主人公の妻は女性が病気になったのだろうと言いますが、「手配の御婦人」という言い方は不自然だと感じた主人公は別の可能性を話します。

そして広がる壮大なストーリー(違)
「これだから女は」って主人公が考えてる場面で、主人公の方が間違ってるのにちょっと笑いました。

ツグミの巣ごもり

酒も煙草もやらない真面目なマーチン氏の職場に社長が特別顧問女性を呼びます。彼女は性格に問題があり、仕事もろくにできず、むしろ職場を荒らしています。
マーチン氏の部署にも魔の手が伸びてきたとき、彼は彼女を"消す"と決意します。
彼は自分が慎重な人間と知られていることを利用して、行き当たりばったりな殺人計画を練り、実行に移しますが…

社長が聞き入れないんじゃどうしようもないよなあ。いや殺すのは駄目なんですけど。
職場の嫌な人ってどう対処するのが正解なんでしょうね。

エラリー・クイーンの犯罪文学傑作選に「安楽椅子の男」というタイトルで同じ話が収録されています

妻を処分する男

中年の弁護士(既婚者)はいつも「かけおちしようぜ」と秘書をからかっていましたが、その日はいつになく真面目でした。
秘書の方はいつものように「いいですよ」と答えます。

「でも離婚させてくれるかしら、奥さんは?」
「無理だろうね」
「そんならまず奥さんのこと、処分してからでないと」
(台詞のみ引用)

これ秘書は「またからかって」と思ってたんだろうな。
この後奥さんのこと処分しようとしているんですけど…なんでこの人弁護士なのに馬鹿なんだろう。

クイズあそび

「宿泊していた部屋に忘れ物がありましたよ。それが何か、それをどうしたいかを連絡してください。二ヶ月経ったら処分しますね」byホテル …(°д°)

ちょっとあらすじふざけました。
いやでも何を忘れたかさえ分からないことありますよね。だから気付いたら物がなくなっていることがあるわけで。

ビドウェル氏の私生活

夫婦の会話。

「あなた、なにをしてるの?」
「ハアアアア、息を止めてたんだ」
「は?やめてちょうだい、イラッとするわ」
「息止めるのは俺の勝手だろう」
「馬鹿みたい。まるでグープね」

※ グープ : ビドウェル夫人の好きな言葉。何にでも使えるらしく、彼女はかなり雑に使ってきます。
ビドウェル氏はこの言葉にイラッとしています。

ビドウェル氏のどうでもいいことをついやりたくなる気持ちはわかるんですけど、時と場所を考えてないのは駄目ですよね。

愛犬物語

買おうとした犬 : スコッチテリア(スコティッシュテリア)

スコッティッシュテリア

( pixabay )

店先でつい買った犬 : ブルテリア

ブルテリア

( pixabay )

体も小さいし、芸も覚えない手間のかかる犬で、他の家に押し付けようとします。

テリアっていろいろいるんですね。イギーとか
駄目な子ほど可愛いこともあるんですけどね。後半の乱闘は熱いです。

機械に弱い男

ペンドリー氏が車で池に飛び込みかけて以来、運転は妻がするようになりました。
彼女は中古車で良いので車を買い替えたいと、ペンドリー氏を連れて車の展示へ連れて行きます。
機械に弱い彼なりにある出来事を頑張りましたが…

話聞いたげてよ…。

決闘

アメリカ副大統領だったアーロン・バーと、彼と決闘した政治家サンダー・ハミルトンが出てくる夢を毎晩見る男の話。そして男を心配する妻の話。
(夢で)男がハミルトンと親しくしていると、バーがハミルトンに暴力を加えます。それからハミルトンは男の弟をはじめ、親しい人たち全員にかわっていきます。
ある晩から夢でバーが加えるものが暴力から銃弾へと変わり…

これはつらい。男も妻も可哀想でした。

人間のはいる箱

箱の中に隠れたい。長らくそう思っていた私は食料品店へ箱を求めに行きますが見つかりませんでした。

箱に隠れたい願望はないけど分からなくもないような。

寝台さわぎ

父が屋根裏で寝た日に起きた事件、風が吹けば桶屋が儲かるような連鎖話です。

  • 父 : この日は一人で過ごしたかった、この日は古い危険なベッドを使う
  • 母 : 心配症、ものごとの良い面を見る
  • 弟 : 母のサポートにまわることが多い
  • 私 : 眠りが浅い(大嘘)、軍隊用の折りたたみベッドを使っている
  • いとこ : たまたま来ていた、寝てる間に息が止まることが怖い、気つけ薬のカンフルを枕元に用意している
  • 祖父 : 古いニュースにとらわれている、軍人気質
  • 犬 : いとこが嫌い
  • 兄 : 力作業は任せろー、(ごめんよくわかってない)

[ 父 ] 屋根裏 [母・弟] [私・いとこ] (私の向かい : 兄) 二階 祖父は外出中

どうしてこうなった。 各々の誤解や混乱っぷりが面白い話です。

ダム決壊の日

ダムが壊れたと誤解して町中がパニックになった話。「寝台騒ぎ」と同じ舞台です。
様々な人の混乱ぶりが書かれています。

これ誰も正しい行動とれなかったと思います。デマかを調べる時間も、ダムが壊れて本当に被害があるのかを調べる暇もなかったですし。

オバケの出た夜

幽霊の足音で家中が大騒ぎになる話。「寝台騒ぎ」「ダム決壊の日」と同じ舞台です。

[ 祖父 ] 屋根裏 [ 母 ] [ 私 ] [ 弟 ] 二階 父と兄は外出中

「寝台騒ぎ」の騒ぎほど連鎖は起こってないんですけど、一番大騒動してます。
生きている人間の方が怖い話でした ( ちょっと違う )

虫のしらせ

エマおばさんの使わなくなった客間には、テーブルに夫がこれまで「虫の知らせ」をうけたときの品がずらっと並べられており、壁に彼の全身大の写真が飾られていました。
どんな虫のしらせがあったかを全て語り手が知っているままに話します。

虫のしらせ : 危険なときに火力が上がる…なんとなく嫌な予感が起こること。
話盛られすぎて虫のしらせ関係ないのがちらほらと…そりゃおばさんも聞きたくなくなりますわ。

決別

避暑地に料理してくれる人を連れて行こうと、どこにでもいそうな女の人を雇った夫婦。
その女性を問題なさそうな人物と思っていましたが、飼っている犬への執着や妙なこだわりを持っていて…

うわあ。
この女性、友人からの紹介なんですよね。友人は何考えて紹介したんだろう。彼女についてよく知らなかったとかでしょうか?

ウィルマおばさんの勘定

暗算の苦手なウィルマおばさんと、暗算の得意な食料品屋のおじいさんはともにけちでした。
あるとき、つり銭をめぐって問題が起こります。

「600円のお会計です」 おばさん)つ1000円札 「400円の…すみません。100円玉が足りないのでもう100円くれませんか?500円玉で返しますから」
「なんで私が100円多く払わないといけないのよ!」
※金額は適当、日本円に置き換えています

こういう人いますよね。他の考え方を理解しようとすることを放棄しないよう気をつけたいです。
最終的に「これだから男は」って、おいおい。

ホテル・メトロポール午前二時

賭博師ハーマン・ローゼンタルがホテル前で、車から降りてきた四人組の男達に取り囲まれ射殺されました。
ローゼンタルは殺される二日前に「ベッカー警部に金を渡していたのに、賭博場を閉鎖された」と警部の汚職を供述し、それが新聞に載っていました。
検察が罪を殺人の暴こうと証人を呼びますが、その中からも被害者が出て連続殺人に。

もらうもんもらっといて賭博所閉鎖する、汚職をばらされたら殺人を依頼する、さらに殺人…警部のkzっぷりがすごい。そこに痺れない憧れない

一種の天才

少年少女が見つけた、殺害された男女の二死体。この事件で150人以上が法廷や新聞の一面に出ましたが、ついに誰も有罪にはなりませんでした。
この150人の中で「豚飼い女」と「ウィリー」がすぐに思い浮かぶだろう、と話が始まります。

やはり天才か…

本箱の上の女性

サーバーが自身の描いた絵を、5つのグループに分けて、どうしてこう描いたか、どうしてそのタイトルをつけたかなどを説明しています。

「目はそんなに大きなくせに、心はどうしてそうちっちゃいんだ?」
この題好きです。

自分の話だからか、他の物語より文章が生き生きしているように感じます。面白かったです。


妄想・破局・思考停止な話が多かったです。短いのでさくさく読めますし、どの話にもなんともいえない絵が描かれていてふふってなります。

SSが好きな人、妄想暴走止まらない人は是非読んでみてください。

【どこへ行こうか】夜の旅その他の旅【異色作家短篇集】

こんにちは、tori1031です。

旅行に行きたいとぼんやり思っているので、異色作家短篇集からこの本を読みました。

夜の旅その他の旅 / チャールズ・ボーモンド

夜の旅その他の旅 (異色作家短篇集)

夜の旅その他の旅 (異色作家短篇集)

目次 ( 原題 )

  • 黄色い金管楽器の調べ ( The Music of the Yellow Brass )
  • 古典的な事件 ( A Classic Affair )
  • 越して来た夫婦 ( The New People )
  • 鹿狩り ( Buck Fever )
  • 魔術師 ( The Magic Man )
  • お父さん、なつかしいお父さん ( Father, Dear Father )
  • 夢と偶然と ( Perchance to Dream )
  • 淑女のための唄 ( Song ]for a Lady )
  • 引き金 ( The Trigger )
  • かりそめの客 ( The Guests of Chance )
  • 性愛教授 ( The Love-Master )
  • 人里離れた死 ( A Death in the Country )
  • 隣人たち ( The Neighbors )
  • 叫ぶ男 ( The Howling Man )
  • 夜の旅 ( Night Ride )

各短編 あらすじ・感想

黄色い金管楽器の調べ

四年惨めな生活をしてきた少年は念願の闘牛士として闘牛場に立てることに。
有名な興行師に素晴らしい新人だと賞賛され、憧れの名闘牛士たちと酒を飲み、美女と踊る夢のような歓迎会。少年は喜びますが、少年を興行師に売り込んだ相棒の様子がおかしいような?

少年が好運だと思えたならそれでいいのかもしれません。

古典的な事件

未だに好意を抱いている女性から夫の浮気のことで主人公は相談をうけます。
夜の駐車場、外からは暗くて見え辛い場所に停めてある車に夫が乗り込むのを何度も見たので間違いないと彼女は言います。
女性の夫と主人公は幼なじみだから仲をとりもって欲しいと女性に頼まれた主人公は、幼なじみと浮気相手を別れさせようとします。
駐車場に向かう幼なじみを待ち伏せ、女性から相談をうけたことを話した主人公。
浮気を認めた幼なじみは主人公に相手を紹介しますが…

浮気相手を紹介って。
オチの予測はついていたものの思わず笑ってしまいました。

越して来た夫婦

引っ越してきた家は立派だし、近所の人たちもいい人なのですが主人公は気に入りませんでした。
家の前の住人が自殺しているし、壁紙にはどうやってもとれない血痕があるし、息子は近所の人たちに怯えて様子がおかしいし、
近所の人たちを招いたパーティーを行えば、妻は主人公の気にしていることを皆に喋ってしまうし、初対面の作家から妙な話を聞かされるし…。

口は災いの元。ってことで主人公にも非はあるけど妻が悪いと思います。

鹿狩り

社長と共同経営者に誘われた主人公は鹿狩りに同行します。会社にとって主人公が期待の人物かどうかを見られるはずです。しかし二週間経っても獲物は現れず…

最後の行動は優しさから、それとも諦めからでしょうか。 そんな単純なものじゃないのでしょうか。

魔術師

喘息と間接の痛みを患うマイカ老人は、魔術師(≒手品師、奇術師)としてシルク博士となり村々を渡り歩いてきました。…ちょっとした詐欺まがいの商売もしつつ。
作り話も得意で誰もが博士の魔術と話を楽しんでいました。
痛みに耐えながらショーをやり遂げた博士は観客に感謝し、恩返しがしたいと頼まれていた魔術の種明かしを始めます。

夢を見に来た人たち相手に現実を語っちゃ駄目ですよ。
何が悪かったかもわかっていない老人が少し可哀想と思いましたが、彼の傍にはまだオバディアがいるのが救いだと思います。オバディアは老人にも博士にも優しいですから。

お父さん、なつかしいお父さん

自分が生まれるより前に戻り、自分の親を殺すとどうなるか。
有名なタイムパラドックスを実際どうなるか確かめたいと偏執してきた男は、長い年月をかけてついにタイムマシンを作り上げます。
殺すのは男が六歳のときに亡くなった父親です。

ここで母親を選ばないのは男の奥さんが言った理由なんだろうなあ。

夢と偶然と

精神科医のもとへ72時間眠っていない患者がやってきます。
ただ不眠に悩まされているとしか聞かされていなかった医者に、患者は何故自分が眠らないかを話し始めます。

せいしんの ちからって すげー!
いきすぎた想像力の話、面白かったです。最後の段落ないほうが好きだなあ。

淑女のための唄

主人公は新婚旅行の船旅に古い船を選びます。その船はレディ・アン号という名で、今度の船旅が終われば廃船になる事が決まっていました。
いよいよ船に乗り込むとき、船の想像以上の古さに主人公達は驚きます。
その中の一人には船に乗るのを止めるよう執拗に言われますが、それに嫌な思いをしながらも主人公達は船に乗り込みます。
乗客は主人公達を除けば年寄りばかりで、皆レディ・アン号が好きでした。

理由も知らせず「乗るな」って言われても普通引き下がらないよね。
とくに主人公達にとっては人生の一大イベントでしたし。

主人公達の乗船を止めたがっていた理由がわかったとき、それのために乗客が集まっていたことに驚きました。

引き金

八ヶ月の間に富や名声を手にした男達が四人も自殺しました。警察は他殺を疑いましたが何の手がかりもありません。
事件の真相を解き明かすべく、フィリップ探偵が呼ばれました。彼は犯罪者を苦しめることが生きがいの変わった男でした。
さっそくフィリップは連続自殺事件について調査しますが、本当に事件なのでしょうか?

ミステリ風。
非道だけど殺人ではないような…でもトリックとそれを暴いた後の話が面白かったです。
私はこの話が一番好きです。

かりそめの客 チャド・オリヴァーとの共作

「ああ、こんな仕事を引き受けたことを」と、大統領はにがにがしげに言った。「わしは悔やまぬ日とてないよ。心底から後悔しておる」
「つまらんことをおっしゃらないで下さい!」と、副大統領がわめいた。「後悔していない人間は一人もいません」

大統領たちは、今の職を捨てて自由になりたいと思っていました。
あるとき、特別な宇宙船を発明したので援助してほしいという教授が来客しました。

私にいい考えがある
読みにくいけど、てんやわんやっぷりが楽しい話です。

性愛教授

性愛について知り尽くした教授のもとに、妻が不感症だと困っている若者が相談に訪れます。
教授はこれでうまくいくはずだと若者に知識を授けて帰しますが、翌日若者から、性交成功しなかったと聞かされます。
教授はつぎつぎテクニックを授けますが…

タイトルにファッ!?てなったのは自分だけでいいです…。
四十八手に詳しいとかかと思っていたらそれ以上の教授でした。知識があって実技も優秀ってそりゃMasterですわ。

グーグル先生、ただのタイトルとあらすじなので怒らないでくれるって信じてます。

人里離れた死

中年のバックは古い愛車とともに田舎のレースへ参加して賞金を稼ぐ生活をしています。
流石に新しい車には勝てないけれど、なんとか賞金のでる三位には入りたいバック。
そんな彼にレース参加者の若者が話しかけてきます。

若者は卑怯だったし詰めが甘いと思います。
得をしない取引に応じる人間なんてそうそういませんよ。

隣人たち

引っ越した先で黒人という理由で脅迫を受けている主人公一家。
脅迫状には「レイクサイド・ハイツ住人一同」と署名されていました。 家族の身に危険が迫ったとき、主人公は家族を逃がし、自分は奴らと戦おうとします。

イイハナシダナー
本当に?

叫ぶ男

主人公はフランスからドイツへ旅行に向かいます。ベルギーを経由しドイツに到着しますが、肺結核のために体調を崩して、辿り付いた村で気を失ってしまいます。
目を覚ますと主人公は聖ウルフラン僧院に運び込まれており、それから修道士から看病をうけました。
僧院では毎晩恐ろしい叫び声が聞こえますが、修道士はそんなものは聞こえない、幻聴だろうと言います。
しかし病気が回復しても叫び声は鳴り止まず…主人公は声の正体を探ります。

フランスもドイツも良いところだと思います。
修道士さんがひどいけど良いキャラしてます。

「 ( 略 ) 僧院長が申されるには、修道士は人が死ぬのを見ると、大いに為になるそうです。しかし、もう、あなたは死にませんな」
修道士は残念そうに頭をふった。

夜の旅

マックスのジャズ・バンドに新しく迎えられたピアニストの青年。
バンドメンバーの一人が冗談まじりにですが、青年をマックスから逃がしてやるよう主人公に言います。それに腹を立てる主人公でしたが、不安は拭えませんでした。
マックスと一対一で話した後の悲しげな青年を見て、主人公は不安が的中したことを知ります。
青年の演奏は人を惹きつける様になりましたが…

お悩み相談で傷を深くされるとか辛い。
マックスの主張は極端ですけど、そういう人たちの演奏に惹かれるのも事実でして。
だからって彼のわざと人を傷つけるようなやり方は間違っていると思います。


SFからギャグテイストまでいろんな話が詰まった本です。旅や引越しで長距離移動している話が多いかな?

破局【異色作家短篇集】

こんにちは、tori1031です。

異色作家短篇集からこの本を。「レベッカ」「鳥」が有名な作家です。

破局 / ダフネ・デュ・モーリア

破局 (異色作家短篇集)

破局 (異色作家短篇集)

目次

  • アリバイ ( The Alibi )
  • 青いレンズ ( The Blue Lenses )
  • 美少年 ( Ganymede )
  • 皇女 ( The Archduchess )
  • 荒れ野 ( The Lordly Ones )
  • あおがい ( The Limpet )

各短編 あらすじ・感想

アリバイ

「奴らは知らないんだ」と彼は考えた。「家のなかにいる人間どもは……おれの身振り一つで、今、この瞬間、自分達の世界が変わってしまうかもしれないということを。ドアをノックする。すると、だれかが出てくる――女があくびをしながら、老人がスリッパーをひっかけて、子供がいらだっている両親にせきたてられて。おれの意志ひとつで、おれの肚ひとつで、奴らの未来はすっかり決定されてしまうのだ。顔がめちゃめちゃになる。とつぜん、殺人。盗み。火事」ざっとそんな具合、いとも簡単なものだ。

繰り返される決まりきった生活に嫌気がさした男は、赤の他人の殺害を決意します。
数字を組み合わせて辿り着いた家、そこの住人である青白い顔をした外国人の女性とその子供が標的に選ばれます。
男はいきなり事件を起こすのではなく、自らを画家と偽り、その家の一室を借りて通いつめます。
そうするうちに男は退屈な日常から離れた生活と、絵を描く楽しみを手に入れました。 男は当初の目的を果たすのでしょうか?どうなるのでしょうか?

とんだサイコ野郎だぜ。おっと口調が。
繰り返しが嫌になるのはわかるんですけど、だからって殺人思いつかなくても…。標的の選び方が数字の組み合わせなのが余計に。
身近な人たちを騙して別人として振舞ったり趣味に没頭したりするとこは憧れますよね。 手回しすごく面倒そうでやろうとも思いませんが。

終盤の男が巻き込まれた一件に驚き、読み終わったとき何を信じていいのか困惑しました。
でもその混乱がたまらなく良い…!

青いレンズ

盲目になってしまった女性が視力を取り戻すべく手術をうけます。 手術で青いレンズを嵌めるまでの期間、いつ手術をするか知らされずに、過剰に親切にされながら過ごしたせいか不安や不信が募って神経が参っています。
手術をし、青いレンズによって彼女は久しぶりに目が見えるようになります。レンズのために色は青のみの世界ですが、見えることが嬉しい彼女には些細なことでした。(数日後、色のついていないレンズに交換する手術あり)
物を見るのを楽しんでいた彼女は、食事を運んできた看護婦を見て驚きます。
看護婦の頭は、牛の頭をしていました。
看護婦一人だけではありません。病室に訪れる人はみな動物の頭をしていました。信頼している人たちさえも…。

ミノタウロスとかアヌビスとかかな (違う)
人間の頭だけが別物、って最近割とメジャー(?)で見慣れてますけど、慣れてなかったら絶対しんどいですね。慣れててもきついか。

彼女の見たものにその人の本性が反映されていたとしたら、最後に見たものにも納得がいきます。
神経過敏になったあげく怖い目に合って可哀想な人でした。

美少年

旅行でヴェニスに訪れ、満喫していた主人公。広場を通りがかったとき、デジャブともロマンスとも違う説明しがたいもの感じます。
広場には二つのオーケストラとカフェがあり、席について給士を探していると、その給士の中から美しい若者の姿が目に留まりました。
その瞬間、思わず涙がこぼれるほどの衝撃をうけた主人公は自分のことをゼウスと、彼をガニメデだと"知り"ました。
ガニメデの酒酌のために広場へ通う主人公の結末は。

ガニメデ ( ガニュメデス )はギリシャ神話に出てくる少年で、全知全能の神ゼウスが誘拐手元に置いておくほどの美人です。
自分のことゼウスとか思っちゃう主人公が怖いし、少年の叔父も金のため?の動きが怖い。

主人公が美少年へ理想抱いてて、「思ってたのと違う!」って憤慨するシーンがあるのですが、これって私達もよくやりますよね。
「アイドルは純粋だ」とか「あの人はこんな趣味を持っているに違いない」とか。
勝手に描いたイメージが壊れて傷つくより、ありのままの相手を受け入れられたらいいんですけど…うまくいきませんね。

皇女

自然豊か、国民は幸福、王族は秘術により不老…そんな架空の王国で革命が起き、共和国になります。
革命首謀者たちによる歴史の改ざんが行われていく中、書き手は本当はどのように革命が起きたのかを書き記します。

途中までおのれマスゴ…マスコミ。(厳密には違う)
って思いながら読んでたんですけど…妄想乙な国民や何もしない王族に、段々げんなりしたりいらいらしました。

他には革命後の実行者の行動が納得いかないです。
皇女を救うぞ!(革命) → 不老の秘術話せよ!(拷問)
お前らなにやってんの?
いや、秘術を公にさせたかったのは知ってるけど…お前ら何やってんの?
…つい口調が荒れました。

荒れ野

「ノー」という言葉が嫌いで、舌がもつれているのか話せない少年。
早春、両親に連れられ荒れ野に引っ越した彼は食料泥棒の話を聞きます。
食物部屋を襲う恐ろしい、けれどとても優しくて綺麗な顔をした泥棒…。そう聞いた彼は、泥棒に興味が沸き、盗みを働かなくて済むようにと食料を用意しますが、そのことが原因でお仕置きをうけます。
用意しておいた食料を見つけた泥棒を見た少年は、美しくて賢そうな彼らについていくことにします。

泥棒…一体何者なんだ?
相手は人間と思えないんですけど「髪の毛」って出てきて混乱しながら読み終わりました。

荒れ野は泥棒のことだったのかと間違えたりするところは子供っぽいのに、泥棒への観察眼とかは立派な少年でした。

仕置きは論外として、少年も悪いとはいえ扱いが雑すぎやしませんかね…不注意とはいえ痣が出来てましたし。少年視点なので本当はそんなひどい扱いしてなかったのかもしれませんけど。

あおがい

どうみてもわたしは鈍感な女ではない。それが苦労の種なのだ。他人の感情に無感覚になれたら、人生はがらりと変わったものになるのだが。無感覚でいられないために、このとおり敗残者になってしまったのだ。わたし自身の罪ではない。それというのも。愛する人たちを傷つけることに耐えられないからなのだ。

こう語り始めたのは将来の不安を抱える、四十歳に近い女性。自分は没我的、周りの人からは頼られたり利用されてきたという彼女は今までのことを語り始めますが…。

とんだサイコ野郎だぜ。おっと口調が。しかも女性でした。さっきも言ったような
彼女は本気で自分の何処が駄目だったのかわからないんだろうなあ。なんだか某掲示板で見かける自分の非を認めずひたすら他者を悪人に仕立て上げる人を見ているような気持ちになりました。


現状を変えようと行動を起こす人たちの話がつまってました。 あと某ゲーム風にいうとSAN値の低そうな人が多かったような…。

少し変わった・変わっていく人の話、少し長めな短編が読みたい方は是非。

【懐古、逃避】レベル3【異色作家短篇集】

こんにちは、tori1031です。五月病にやられてました。

懐古気味なので異色作家短篇集からこの本を読みました。

この作家は映画「盗まれた街」が有名だそうです。

レベル3

ジャック・フィニィ

レベル3 (異色作家短篇集)

レベル3 (異色作家短篇集)

目次 ( 原題 )

  • レベル3 ( The Third Level )
  • おかしな隣人 ( Such Interesting Neighbors )
  • こわい ( I'm Scared )
  • 失踪人名簿 ( Of Missing Person )
  • 雲のなかにいるもの ( Something in a Cloud )
  • 潮時 ( There Is a Tide... )
  • ニュースの陰に ( Behind the News )
  • 世界最初のパイロット ( Quit Zoomin' Those Hands Through the Air )
  • 青春を少々 ( A Dash of Spring )
  • 第二のチャンス ( Second Chance )
  • 死人のポケットの中には ( Contents of the Dead Man's Pocket )

各短編 あらすじ・感想

レベル3

ニューヨーク・セントラル鉄道の社長や、ニューヨーク=ニューヘイヴン=ハートフォド鉄道の社長ならば、山と積んだ時間表にかけて、地下は二階しかないと断言するにちがいない。しかし、ぼくにいわせれば三階だ。なぜかなら、ぼく自身が、グランド・セントラル駅で、地下三階へ行ってきたからである。

友達にそんなものはない言いわれようと、主人公は地下三階の存在を確信しており、再び其処へ行こうとしています。確信の根拠、再訪を求める理由とは?

レベルって階のことだったんですね。
出だし(上の引用文)で惹き付けられ、そのまま一気に読んでいました。この話に限ったことではないんですけどね。
最初のあれに意味があるとは…。
こういう場所って何度も行けるもんじゃないのが定番ですが、主人公達は辿り着けるといいな。

おかしな隣人

正直なはなし、ヘレンべック夫婦に、どこかおかしなところがあると、最初から思っていたとはいえない。たしかに、ちょっと変わっていることには二つ三つ気がついて、はてなと思いはしたものの、すぐに頭から振りはらってしまった。夫婦ともいい人間だった。ぼくは彼らが好きだった。それに、誰だって二つや三つ、おかしな癖は持っているものだ。

ずっと国内で暮らしてきたというのに小銭がわからない、ドアは勝手に開くものと思っている…そんな些細なことよりずっと、おかしな話を聞くことに。

隣人あまり誤魔化す気がなかったんでしょうか。

こわい

私は心底おそろしい――じぶんのことはさほどでもないが、あんたやほかの、私のように六十六でもなく、人生をまだ生ききっていないみんなのために、怖い。なにがといって、私は最近この世界に、ある恐ろしい危険が起きはじめているのを知っているからだ。それらは離れたそこここに起き、なんとなく噂になって、やがて置き去られ忘れられてしまう。だが私は、そうした一連の出来事の招待が、はっきり認識されないかぎり、やがて世界が、白昼夢のなかへ頭から突っこんでゆくことを確信している。
あんたはじぶんで判断するがいい。

最初、主人公がラジオから既に亡くなった人の声を聞いたとき、良い話のネタができた程度にしか思っていませんでした。しかし、主人公の話を聞きつけた人たちから似たような、時間軸が乱れたような奇妙な話がどんどん集まってきます。
そして主人公がたどり着いた「こわい」事実とは。

まんじゅうこわい違う違う。

ここまで三話続けて同じ願望が出てきて、最後がこれですから考えてしまいます。
歪みを引き起こすほどのそれは問題、かといって無くすことはまず無理な感情です。

失踪人名簿

普通の旅行案内所へ入っていくような顔をして入っていくんです。バーで逢った、見知らぬ男はそういったのだ。ありふれた質問を二、三するんです――旅行の計画とか、休暇の過ごし方とか、なんでもよいからそんな質問をなさい。それから、例のパンフレットのことをちょっとほのめかしてみる。ただし、どんなふうにいってもいいが、急くことだけはいけませんよ。彼のほうから切りだすまで待っているんです。そしてもし彼が持ちださなければ、あきらめたほうがよろしい。あきらめられたらですがね。つまりあなたには結局見えない、あなたがそのタイプでないということなのだから、それにもし、あなたから尋ねようものなら、彼はいったい何のことをいっているんだという顔をしてみせるだけでしょうからね。

その言葉を胸に主人公はある期待を胸に旅行案内所へ向かいます。主人公の望み、そして例のパンフレットとは一体…?

全て遠き理想郷。
「バーで逢った、見知らぬ男」が何故パンフレットの話を知っているのか不思議でしたが、最後まで読んでわかりました。
私もパンフレット欲しいです。向こうにネットが無いのは残念ですが。

雲のなかにいるもの

ペン・ステーションの雑踏を人並みにもまれながら歩いていくチャーリイの姿を、あなたがふと見かけたにしても、二度と見直しはしなかっただろう――事実だれひとり、そんな者はいなかった。

自分の姿に夢見て、声しか知らない相手に夢を見る男女は待ち合わせます。 過剰な空想として雲のなかに現れる相手の姿はもちろん現実の相手と違う姿をしています。
二人は互いに気付くことができるのでしょうか?

漫画の手法を小説にしてみた。そんな感じです。
知らない人と会うときはもっとお互いの特徴を伝えるか、合図を決めておくべきだと思います。
衝撃のラスト、というには大げさかもしれませんがあれには驚きました。

潮時

この話は、ぼく自身のためにする。気になって、苦しくて仕方がないからだ。

昇進のために同僚を陥れたい、けれど良心が邪魔をする…悩む主人公の前に、老人の幽霊が現れます。やがて消えた幽霊もまた、良心とたたかっていたよう見えました。
それを見ていた主人公にある考えに至りました。もしやあれは未来の自分の姿では?
疑問を振り払うべく、主人公は住んでいるアパートにかつて住んでいた人を調べ、訪ねます。

不思議な話です。
幽霊はやり遂げたけど、本当にそれで良かったのかな。
やり遂げなかったらしんどかったとは知ってる、知ってるけども。

ニュースの陰に

警察署長クエイルに関するでたらめきわまる中傷記事がどうしてクラリオン新聞にまぎれこんだのか、だれひとり知るものはなかった。が、全責任は主筆にあった。それは金曜の印刷日で、旧式な平圧印刷機が、週に一度発酵される千二百部の新聞をいよいよ刷りにかかろうとする前の小休止のときだった。

鋳造植字機の鉛に隕石交じりといわれる文鎮を混ぜ、それで記事を書くと可能性のある出来事ならその通りになるようなりました。はじめ主人公は警察署長への嫌がらせや、好意を寄せている相手と夜会などの同行に使っていましたが、段々エスカレートしていき…

クエイルさんが可哀想な件。

世界最初のパイロット

おい、若いの、両手をひろげてぶんぶんいうのはもうやめんか――お前が飛行士なのはよくわかったよ!お前は戦争でよく飛んだともさ。わしの孫もそうだった。じゃが、だからといって戦争のことならなんでも知ってるって顔はしなさんな。飛行機のことだってさ。

老人は世界最初のパイロットだと言いますが、その頃にはまだ飛行機は登場していません。
飛行機は元教授の少佐が発明した機械で未来から運んだ、そう語った老人の飛行機と戦争の話とは。

飛行機を持ってくる部分は、ゼル伝時空の章を思い出しました。過去にそれがあるかないかを利用するんですよね。 草刈ったとこで竪琴使ったら、草が復活して動けなくなって、過去と今を延々と繰り返すことになったっけ…(遠い目)
エスサァ

青春を少々

ふつうの雑誌の挿絵では、とてもこの物語にはむかないだろう。たとえば、主人公の娘は (名前はルイーズ・ハップフェルト) 美人というほうではないし、青年はといえば (ラルフ・シュルツというのが、その名前だ) 、背が低くて、眼鏡をかけているというていたらく。

物語の人生もとい恋愛に憧れ、真似てみた男女の話。彼らは物語のようにうまくいくのでしょうか?

なんでや!眼鏡関係ないやろ!

つらいだけの物語も多くあるとは思いますが、物語の人生がはるかにすばらしいのは同意ですし羨ましいです。

第二のチャンス

それはよくわかっている。なぜぼくが世界中のだれ一人として憶えてすらいないような時と場所に行きついてしまったのか、その理由をはなせないということは。だがぼくにも、あの日の朝、田舎道からわずかはずれた古納屋の中に立って、あそこへぼくを連れてゆくはずだったものを、呆然と見おろしていたときの気持ちなら、話せるかもしれない。

クラシック車が大好きな主人公はジョーダン・プレイボーイだったもの、列車と衝突しぺしゃんこになった鉄くず同然のそれを手に入れ、当時の部品のみで元通りに復元します。
彼女をドライブに誘うも失敗し、寂しいところに行きたくなった主人公が田舎の旧道を走っていると不思議なことが起こります。
クラシック車ばかりが走っている町、おそらく1923年にタイムスリップしてきたのでした。
停車しているうちにジョーダン・プレイボーイが盗まれた後、主人公は無事現在に帰ってきますがまたしても不思議なことが。

あらすじうまくまとまってませんが、すごく面白いです。
タイムトリップもののお約束のような展開かもしれませんし、「潮時」を読んだ後ってのもあるかもしれませんが、後半好きです。

死人のポケットの中には

居間の小さなデスクに向かって、トム・ベネクは二枚の薄紙と、やや厚手のトップ・シートを一枚、カーボン紙を間にサンドイッチにして、ポータブル・タイプライターに巻き込んだ。トップ・シークレットには『社内用便』と印刷してある。その真下に、彼は明日の日付をタイプした。それから、タイプライターの横に置いた、彼の手書きの文字が一面に書きこまれて折目のついた黄色の紙に、視線を走らせた。

妻と過ごせないことに罪悪感を感じながらも仕事を頑張る主人公。次の仕事のために様々なデータを黄色の紙に纏めていましたが、それが風に飛ばされて5ヤード ( ≒4.572メートル ) は離れた、隣のアパートのはでな角飾りに挟まってしまいます。
今までの努力の結晶を諦めきれない主人公は壁の出っ張りやレンガの引っ込みを伝って紙を取りにいくことにします。…十一階の窓の外へ。

大事なものに気付けて良かったねって話なんでしょうけど、死ぬほど怖い思いして最後ああなったら主人公と同じ行動は取れないです。

机の上にメモとか紙を置きっぱなしにしないことを決意しました。…部屋一階ですけども。
文鎮、かっこよく言うとペーパーウェイト?で風に飛ばされないようするのが楽でいいかもしれませんね。かっこいいのが欲しい


それぞれの話で色んな読後感がありました。微笑ましくなったり、納得したり、失敗に同情したり…
「盗まれた街」など、他の作品も読みたくなりました。

時間に関する話と、逃避願望の出てくる話が多かったです。恋愛物も少々。
時間絡みのSFが好みの方や、「あの頃はよかった」と思っている方。是非。

【近未来・宇宙】無限がいっぱい【異色作家短篇集】

こんにちは、tori1031です。

この本は異色作家短篇集の中でも特にSF色が強いと思います。

無限がいっぱい

ロバート・シェクリイ

無限がいっぱい (異色作家短篇集)

無限がいっぱい (異色作家短篇集)

目次 ( 原題 )

  • グレイのフラノを身につけて ( Gray Flannel Armor )
  • ひる ( The Leech )
  • 監視鳥 ( Watchbird )
  • 風起こる ( A Wind is Rising )
  • 一夜明けて ( Morning After )
  • 先住民問題 ( The Native Problem )
  • 給餌の時間 ( Feeding Time )
  • パラダイス第2 ( Paradise Ⅱ )
  • 倍額保険 ( Double Indemnity )
  • 乗船拒否 ( Holdout )
  • 暁の侵略者 ( Down Invader )
  • 愛の語学 ( The Language of Love )

各短編 あらすじ・感想

グレイのフラノを身につけて

トマス・ハンリーが、その妻にえらんだ婦人との最初の出会いに用いた手段は、いちおう、ここに記録しておくだけのものがあるように思われる。とりわけ、人類学や社会学の研究にたずさわる人たちとか、猟奇趣味に熱をあげている好事家たちにとっては、見逃すことのできぬ事実といえるのだった。

好青年なトマス・ハンリーはロマンスを夢見ていました。夢みているのは彼だけでなく、皆がそうでしたが。
ある金曜日、どこにも寄る気になれずアパートに帰宅したハンリーの元にセールスマンが訪れます。
彼が売っているものは簡単に言うとロマンスで、ハンリーは数日それを試すことになります。

小型機械で指示をもらうんじゃそれはロマンスと呼ばないんじゃ…セールス側の商魂逞しいなあ。
最後のハンリーの気持ち分かる気がします。しっかし商魂逞しいなあ。

ひる

フランク・コナーズ教授の所持する土地に、あらゆる物質、エネルギーを吸収する地球外生命体のひるが現れました。吸収能力以上のエネルギーを与えれば退治できそうですが、検討や手続きをしている間にひるはどんどん成長していきます。何か手はないものか…

人類学の講義、物理・化学の勉強、六つの学会委員、一年に一冊本を執筆…教授すごすぎ。
その知識をいかしてひるへの対策をちゃんと考えるとこも偉い。そんないざというとき役立つような勉強がしたいですね。自分も勉強しないと…

将軍のやると決めたらやりきるっていうのは素晴らしいけど、時と場合によっては折れたり諦めたりすることも必要なんだよなあ。

監視鳥

殺人事件を未然に防ぐため、殺意に反応する機械の鳥を大量生産し、空に放ちました。機械学習を行うそれはだんだん殺意の定義がエスカレートしていき…

よくある(?)、ロボットの暴走に手をつけられなくなり人間が危機に瀕する話です。そうなることは知ってた。
苦痛をさっさと取り除きたいという気もわかりますが、最後の下りは学習能力ない人たちだなと思いました。

話は違うんですけどフィリップ・K・ディックの短編に殺戮のためにつくられたロボットがいたのを思い出しました。変種第二号だったかな。

風起こる

外では、風が起こりつつあった。だが、ステーションのなかのふたりには、考えることがあった。

地球から遠く離れた風の吹き荒れる惑星キャレラ、その観測ステーションで働くクレイトンは貯蔵タンクとステーションを繋ぐ水道管の修理に、プルートという頑丈な乗り物に乗り出ます。キャレラ人は今日の風はたいしたことにはならないと言っていましたが、どんどん酷くなっているような…?

クレイトンは死亡フラグ建てすぎだと思うの。それとも「仕事辞める辞める詐欺」の場合は逆に折ってることになるのかな?
時速70マイル(≒時速112.65km)以下にならない惑星をわざわざ観測しなくていいと思うのですが、偉い人の考えることはわからないです。 無風状態だと生きていけないけど、その星にばっちり適応する宇宙人の姿形がユニークです。

クレイトンがどう切り抜けるのか、はらはらしながら読みました。最後クレイトン達にとっては笑うところじゃないのに笑ってしまいました。

一夜明けて

昨夜は酒を飲みすぎく記憶がおぼろげ、目を覚ますと未開のジャングル(地球外)にいるというわけのわからない状況。危険な生物から逃れながら彼は昨晩の記憶を辿り、ついに思い出します。
――そうだ。こんな場所にいる理由は、

合法ドラッグ(ガチ)
働く必要は無い、娯楽に溢れている、でも自殺が増えている世界。
働きたくないでござるってよく言っちゃうけど、この世界は嫌だなあ。

先住民問題

反集団的な性質を持って産まれた主人公、集団から離れて生活すべく無人の星へ行きます。自然豊かな過ごしやすい星でのんびり暮らしますが、流石に人恋しくなってきた主人公。そんなある日、旧式の宇宙船がこの星に着陸します。
宇宙船から降りてきた人達に主人公は友好的に接しますが、彼らは主人公のことを先住民と決め付け、何かとつっかかってきます。

読んでるとき「あいつは話をきかないからな ( 某大天使 )」が何度脳内で流れたことか…
先住民問題で痛い目に合っていると知っても、彼らの相手の話に耳を傾けない姿勢にはげんなりします。ちゃんと主人公の説明聞けばいいのに。いっそ地球に戻ればいいのに。

主人公が彼らの思い込みを利用して立ち回ったり、最後に皮肉(?)を言っているところは痛快でした。

給餌の時間

グリフォンがとる唯一の食餌は、若い処女である。餌をあたえる時期は、一ヶ月に一回、そしてその管理には訓練が必要であって――

珍しい古本が好きな主人公は「グリフォンの管理と飼育」という本を見つけ、購入します。
管理と飼育について詳しい説明の書かれた本の終わり近くには、動物園に行く方法も載っていました。

グリフォンにはちゃんとお辞儀しないと…それはハリー・ポッターか。

短篇集の中で一番短い話です。鮮やかなオチです。

パラダイス第2

その惑星ステーションは、なにかを待ちうけるように、惑星の周囲を運行していた。

料理上手なハワードと機械の扱いに長けたフレミングの二人は商用に使えそうな無人の惑星を発見します。傍の惑星ステーションに明かりが点いていたため、人の死に絶えた惑星を調査した後でステーションも調査することになります。そこでフレミングは罠にかかり、ハワードは出口を塞がれてしまいます。

かれはわめいた。
「だれがこんなことをした? なぜきさまたちは、ステーションにあかりをつけたんだ? フレミングをどうしたんだ?」

読んでる間ずっと不安になる話でした。
ハワードのおなかはすいてないけど、安心するために食べるってのがわかるような…。

衝撃のラストって言葉がぴったりです。
これまた話は違うし舞台も違うのですが、ダールの「豚」を思い出しました。

倍額保険

主人公は時間旅行の倍額保険を利用して一攫千金を企みます。そのために過去を遡り目星をつけておいた自分に良く似た人間を探しますが、なかなか条件にぴたりと合った人物が見つかりません。現在から千年以上時間を移動してはいけない、けれどその時間の中には見つけられなかった主人公はそれを破ります。ついに見つけた人物と手を組む主人公、ようやく倍額保険を手にする計画が始動します。

これもまた(ry)、ドラえもんが未来の自分を呼んでのび太の宿題を終わらせる話を思い出しました。
「やろう、ぶっころしてやる」
「きゃあ、じぶんごろし」

ハイリスク・ハイリターンな話です。「発つ鳥後を濁さず」という言葉があってだな…主人公は二度と戻るつもりがなかったからだろうけど、だとしてももうちょっとうまく立ち回ればいいのにと思いました。

乗船拒否

フォーブズはその新任補充員に会ったわけではなく、また、会おうとも思っていなかったのだが、話をきいただけで、たくさんだというのだ。かれの説明によれば、それは個人的な問題ではなかった。かれの苦情は、純粋に、人種的な理由にもとづくものだった。

出発四時間前の宇宙船で、人種差別など残っていないような時代にフォーブズが人種的な理由から乗船拒否します。今更新任補充員を変更することも、フォーブズの代わりを補充することも、出発を遅らせることも難しい状態で、船長は船員達にフォーブズの問題についての話や意見を聞き込みます。

「人種差別などない!」って言ってる登場人物みんなが「○○人だから××だ」「○○人とは働けない」「○○人の考えてることはわからない」って言っちゃう世界。
文化の違いも歴史認識の差もあるしそんなもんですよね。差別は駄目だけど区別は必要だと思います。

暁の侵略者

この特殊なテクニックをもってすれば、たとえ異星人がどのような種族であろうと、またどのような敵意を抱いていようと、地球人はその新環境のなかで、戦いぬくことができるにちがいなかったのだ。

人口の増えすぎた地球を離れ、とある惑星に暁の時刻に着陸した若者。明るくなってから惑星について調べた結果、地球人の生存に適さないと判明します。

侵略を完了するのに、一時間以上はかけるわけにはいかない。

一人の異星人と遭遇した若者は、「特殊なテクニック」を用いて相手の心を侵略しようとします。

侵略が肯定されている嫌な世界です。住みづらそうな星を侵略せずに無人星を開拓しなよ…。
初めてこの戦闘を行っている筈の相手がやり慣れている事情が最後にわかります。侵略の攻防からこの終わりに辿り着くとは。

心と心の戦闘描写はなんでもありで面白いです。学校にテロリストが襲撃して来る系の妄想の参考にしてはいかがでしょうか。

愛の語学

彼女への愛を陳腐な言葉で語りたくない…。
正しく言葉にしたい青年は「愛の語学」の存在を知り、それを知る唯一の人物の元へ教わりに行きます。

草失礼。 地球に戻った青年の第一声がw
いや語学的にはそれがベストなんでしょうけどもwww

両者が理解してないと意味無いですよね。ってそこで終わらないのが流石。


句読点やひらがなが多くて少し読みにくいです。

収録作品のほとんどが近未来や宇宙を舞台にした話です。(例外に給餌の時間が挙がると思います)
ですので、近未来や宇宙ネタがSF好きな方にオススメしたい一冊です。