こんにちは、tori1031です。
今回は異色作家短篇集からこの本です。
一角獣・多角獣 / シオドア・スタージョン
- 作者: シオドアスタージョン,Theodore Sturgeon,小笠原豊樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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目次
あらすじ・感想
一角獣の泉
一角獣やマンドレイクの存在するファンタジーな世界です。塩分を含む沼地の近くの村に住む青年デルは、地主の娘リタの罠に嵌まり一時的に盲目になってしまいます。一方、おとなしくデルに惚れているバーバラという娘は真水の泉で一角獣を目撃します。
☆
デルがもう少し考えて行動していたらなー…でも美女に誘われたら仕方ないのかな。
最後のくだりで「ざまぁ」って思った自分は、一角獣に認められないんだろうなあ。
熊人形
四歳の少年は化け物の熊のぬいぐるみと一緒にベッドに入ります。熊は少年に未来の彼の姿を夢で見せます。少年は熊の食事である知識になるようなことを話します。少年は熊に誘導され、夢の中で周りの人に事故を起こし、被害を与え続けます。
未来の少年視点の話が挟まり、物語は終わりへ向かいます。
☆
タイトルは人形だけどぬいぐるみです。ぬいぐるみより人形のほうが化け物らしいからかな。化け物らしいってなんだ。
未来の少年は講師をしているので、熊が知識を貪るのにこの少年が適任だったのでしょう。救いはないんですか?
ビアンカの手
白痴の娘ビアンカの美しい手に魅せられた青年の話。ビアンカの手を観察していた青年は、手が彼女の本体だと思います。
☆
好きな物に尽くし、愛でられた青年は幸せ者です。皮肉じゃないです。
孤独の円盤
主人公は入水自殺をしようとしていた女を間一髪で助けます。彼女はある事件で有名になってしまった人でした。主人公は彼女から事件とその後の話を聞きます。事件は、空飛ぶ円盤によって起こりました。
周りに追い詰められても彼女は円盤からのメッセージを一切話そうとしません。何故彼女が話したがらないか、何故主人公が彼女に会いに来たのかわかったとき「ああ」となりました。
めぐりあい
いっそ読まないほうがいいのではないか。いや、ほんとうにそうなのだ。これは「ひょっとすると、きみの身にも起こるかもしれない」などと、そんな生易しいこととはわけがちがうのだから。
主人公は互いに理解し合える運命の女性とめぐりあいます。しかしその日から生首に話しかけられたり、姿の見えない鼠の足音が聞こえたりと奇妙な出来事が続きます。
☆
生首の伝えようとしていること、正体がわかるまでのどきどき感。
ふわふわちゃん
ふわふわちゃんというあだ名の猫を飼っている老婦人の館へ、話上手な男が訪れていました。その館に泊まった彼の部屋に、真夜中ふわふわちゃんが訪れます。ふわふわちゃんはなんと人の言葉を喋りました。彼らは互いに思っていることをぶつけます。
☆
可愛いあだ名に反して言っていることが酷い猫です。いや主人公も酷いですけど。
猫は主人公を陥れるためにあることをしたのですが、調べればすぐわかりそうで罠になってないと思いました。
反対側のセックス
つまりね、この二つの死体は、実は二人の人間じゃないんだよ
事件に巻き込まれた二つの奇怪な死体が医者の元に運び込まれます。被害者のものと思われる聞いた事も無い悲鳴を聞いていた女性記者が取材にやってきますが、そこで同じ悲鳴が聞こえてきます。
悲鳴の出所を二人で探し、見つける前に医者の提案で諦めて帰ることになります。
記者と別れた後、医者は死体安置所から火が出ているのに気付き消火にあたります。しかし、死体は何者かによって完全に焼失してしまいます。死体焼失の報告後、医者は帰りに寄ったバーで不思議な女性と出会います。
☆
長い!スープが冷めちまうぜ ( 元ネタ分かる人いるかなあ… )
「めぐりあい」に出てきた単語が出てきます。
短い中にぎっしり詰まっています。タイトルに反して(?)終わり方は穏やかです。
死ね、名演奏家、死ね
殺そうとしたことは、今までに二度あった。一度は正攻法でいって失敗した。二度目はこっそりやって、これまた失敗した。だが、今度こそはうまくいったのだ。
主人公フルークはラッチの率いるバンドで司会を行っていました。バンドを成長させてきた優秀なラッチ、誰もが好きになった新入りに好意を寄せられているラッチ、成功者ラッチ。主人公はラッチが憎くてたまりませんでした。それこそ殺してやりたいくらいに。
☆
主人公の言い分が納得できなかったのですが、彼にとっては憎むことに意味があったのかなと。それは虚しいな。
死んでも残るもの、周りの遺そうとするもの。それがある限り簡単に完全には殺せない。
監房ともだち
奴はなんにも言わない。ありがとうも言わねえ。
偽札を持っていたために監房に入れられていた主人公。同室に虫のように胸部の膨らんだ異常な図体の男が入ってきます。主人公は男に意地悪しようとしますがどうもうまくいきません。まるで男には従わせる力があるような、それだけではないような…
☆
今度は「反対側のセックス」に出てきた単語が出てきます。
主人公は善人じゃないのに最後の文章に妙に胸が痛みました。自分でも何故そんな傷ついたのかわかりません。
考え方
主人公はかつてタンカー船で働いており、部下にケリーというユーモアのある変わった男がいました。
例えば、ケリーは人に時計を投げつけられたとき、時計を投げつけ返さずに「人」を掴んで時計に向かって投げつけます。そのくらいケリーの考え方は人と変わっていました。
いまや異色作家になった主人公は知り合いの医者の診察についていき、何もしていないのに次々と酷い骨折をしていく患者のことを知りました。
主人公が隣の部屋で診察を待っていると、患者の兄と出くわします。そこにいたのはケリーでした。
久しぶりの再会を喜ぶ彼らは、ケリーの弟の症状の原因をつきとめようとします。
☆
また長い…
発想の逆転。それがわかっていても最後なにが起きたのか理解しきる前にぞっとしました。
最初のケリーの愉快な逸話からは想像できませんでした。すごい。
救われない話が多かったです。自業自得であれ、他者に陥れられたのであれ、破滅する人間の最期の一文には胸が痛みました。それでも読む手が止まりませんでした。
穏やかに終わる話ではほっと一息つけます。しかし一番好きなのは「考え方」という。
異色で強烈な短篇集でした。