本の虫もどきは働きたくない

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【懐古、逃避】レベル3【異色作家短篇集】

こんにちは、tori1031です。五月病にやられてました。

懐古気味なので異色作家短篇集からこの本を読みました。

この作家は映画「盗まれた街」が有名だそうです。

レベル3

ジャック・フィニィ

レベル3 (異色作家短篇集)

レベル3 (異色作家短篇集)

目次 ( 原題 )

  • レベル3 ( The Third Level )
  • おかしな隣人 ( Such Interesting Neighbors )
  • こわい ( I'm Scared )
  • 失踪人名簿 ( Of Missing Person )
  • 雲のなかにいるもの ( Something in a Cloud )
  • 潮時 ( There Is a Tide... )
  • ニュースの陰に ( Behind the News )
  • 世界最初のパイロット ( Quit Zoomin' Those Hands Through the Air )
  • 青春を少々 ( A Dash of Spring )
  • 第二のチャンス ( Second Chance )
  • 死人のポケットの中には ( Contents of the Dead Man's Pocket )

各短編 あらすじ・感想

レベル3

ニューヨーク・セントラル鉄道の社長や、ニューヨーク=ニューヘイヴン=ハートフォド鉄道の社長ならば、山と積んだ時間表にかけて、地下は二階しかないと断言するにちがいない。しかし、ぼくにいわせれば三階だ。なぜかなら、ぼく自身が、グランド・セントラル駅で、地下三階へ行ってきたからである。

友達にそんなものはない言いわれようと、主人公は地下三階の存在を確信しており、再び其処へ行こうとしています。確信の根拠、再訪を求める理由とは?

レベルって階のことだったんですね。
出だし(上の引用文)で惹き付けられ、そのまま一気に読んでいました。この話に限ったことではないんですけどね。
最初のあれに意味があるとは…。
こういう場所って何度も行けるもんじゃないのが定番ですが、主人公達は辿り着けるといいな。

おかしな隣人

正直なはなし、ヘレンべック夫婦に、どこかおかしなところがあると、最初から思っていたとはいえない。たしかに、ちょっと変わっていることには二つ三つ気がついて、はてなと思いはしたものの、すぐに頭から振りはらってしまった。夫婦ともいい人間だった。ぼくは彼らが好きだった。それに、誰だって二つや三つ、おかしな癖は持っているものだ。

ずっと国内で暮らしてきたというのに小銭がわからない、ドアは勝手に開くものと思っている…そんな些細なことよりずっと、おかしな話を聞くことに。

隣人あまり誤魔化す気がなかったんでしょうか。

こわい

私は心底おそろしい――じぶんのことはさほどでもないが、あんたやほかの、私のように六十六でもなく、人生をまだ生ききっていないみんなのために、怖い。なにがといって、私は最近この世界に、ある恐ろしい危険が起きはじめているのを知っているからだ。それらは離れたそこここに起き、なんとなく噂になって、やがて置き去られ忘れられてしまう。だが私は、そうした一連の出来事の招待が、はっきり認識されないかぎり、やがて世界が、白昼夢のなかへ頭から突っこんでゆくことを確信している。
あんたはじぶんで判断するがいい。

最初、主人公がラジオから既に亡くなった人の声を聞いたとき、良い話のネタができた程度にしか思っていませんでした。しかし、主人公の話を聞きつけた人たちから似たような、時間軸が乱れたような奇妙な話がどんどん集まってきます。
そして主人公がたどり着いた「こわい」事実とは。

まんじゅうこわい違う違う。

ここまで三話続けて同じ願望が出てきて、最後がこれですから考えてしまいます。
歪みを引き起こすほどのそれは問題、かといって無くすことはまず無理な感情です。

失踪人名簿

普通の旅行案内所へ入っていくような顔をして入っていくんです。バーで逢った、見知らぬ男はそういったのだ。ありふれた質問を二、三するんです――旅行の計画とか、休暇の過ごし方とか、なんでもよいからそんな質問をなさい。それから、例のパンフレットのことをちょっとほのめかしてみる。ただし、どんなふうにいってもいいが、急くことだけはいけませんよ。彼のほうから切りだすまで待っているんです。そしてもし彼が持ちださなければ、あきらめたほうがよろしい。あきらめられたらですがね。つまりあなたには結局見えない、あなたがそのタイプでないということなのだから、それにもし、あなたから尋ねようものなら、彼はいったい何のことをいっているんだという顔をしてみせるだけでしょうからね。

その言葉を胸に主人公はある期待を胸に旅行案内所へ向かいます。主人公の望み、そして例のパンフレットとは一体…?

全て遠き理想郷。
「バーで逢った、見知らぬ男」が何故パンフレットの話を知っているのか不思議でしたが、最後まで読んでわかりました。
私もパンフレット欲しいです。向こうにネットが無いのは残念ですが。

雲のなかにいるもの

ペン・ステーションの雑踏を人並みにもまれながら歩いていくチャーリイの姿を、あなたがふと見かけたにしても、二度と見直しはしなかっただろう――事実だれひとり、そんな者はいなかった。

自分の姿に夢見て、声しか知らない相手に夢を見る男女は待ち合わせます。 過剰な空想として雲のなかに現れる相手の姿はもちろん現実の相手と違う姿をしています。
二人は互いに気付くことができるのでしょうか?

漫画の手法を小説にしてみた。そんな感じです。
知らない人と会うときはもっとお互いの特徴を伝えるか、合図を決めておくべきだと思います。
衝撃のラスト、というには大げさかもしれませんがあれには驚きました。

潮時

この話は、ぼく自身のためにする。気になって、苦しくて仕方がないからだ。

昇進のために同僚を陥れたい、けれど良心が邪魔をする…悩む主人公の前に、老人の幽霊が現れます。やがて消えた幽霊もまた、良心とたたかっていたよう見えました。
それを見ていた主人公にある考えに至りました。もしやあれは未来の自分の姿では?
疑問を振り払うべく、主人公は住んでいるアパートにかつて住んでいた人を調べ、訪ねます。

不思議な話です。
幽霊はやり遂げたけど、本当にそれで良かったのかな。
やり遂げなかったらしんどかったとは知ってる、知ってるけども。

ニュースの陰に

警察署長クエイルに関するでたらめきわまる中傷記事がどうしてクラリオン新聞にまぎれこんだのか、だれひとり知るものはなかった。が、全責任は主筆にあった。それは金曜の印刷日で、旧式な平圧印刷機が、週に一度発酵される千二百部の新聞をいよいよ刷りにかかろうとする前の小休止のときだった。

鋳造植字機の鉛に隕石交じりといわれる文鎮を混ぜ、それで記事を書くと可能性のある出来事ならその通りになるようなりました。はじめ主人公は警察署長への嫌がらせや、好意を寄せている相手と夜会などの同行に使っていましたが、段々エスカレートしていき…

クエイルさんが可哀想な件。

世界最初のパイロット

おい、若いの、両手をひろげてぶんぶんいうのはもうやめんか――お前が飛行士なのはよくわかったよ!お前は戦争でよく飛んだともさ。わしの孫もそうだった。じゃが、だからといって戦争のことならなんでも知ってるって顔はしなさんな。飛行機のことだってさ。

老人は世界最初のパイロットだと言いますが、その頃にはまだ飛行機は登場していません。
飛行機は元教授の少佐が発明した機械で未来から運んだ、そう語った老人の飛行機と戦争の話とは。

飛行機を持ってくる部分は、ゼル伝時空の章を思い出しました。過去にそれがあるかないかを利用するんですよね。 草刈ったとこで竪琴使ったら、草が復活して動けなくなって、過去と今を延々と繰り返すことになったっけ…(遠い目)
エスサァ

青春を少々

ふつうの雑誌の挿絵では、とてもこの物語にはむかないだろう。たとえば、主人公の娘は (名前はルイーズ・ハップフェルト) 美人というほうではないし、青年はといえば (ラルフ・シュルツというのが、その名前だ) 、背が低くて、眼鏡をかけているというていたらく。

物語の人生もとい恋愛に憧れ、真似てみた男女の話。彼らは物語のようにうまくいくのでしょうか?

なんでや!眼鏡関係ないやろ!

つらいだけの物語も多くあるとは思いますが、物語の人生がはるかにすばらしいのは同意ですし羨ましいです。

第二のチャンス

それはよくわかっている。なぜぼくが世界中のだれ一人として憶えてすらいないような時と場所に行きついてしまったのか、その理由をはなせないということは。だがぼくにも、あの日の朝、田舎道からわずかはずれた古納屋の中に立って、あそこへぼくを連れてゆくはずだったものを、呆然と見おろしていたときの気持ちなら、話せるかもしれない。

クラシック車が大好きな主人公はジョーダン・プレイボーイだったもの、列車と衝突しぺしゃんこになった鉄くず同然のそれを手に入れ、当時の部品のみで元通りに復元します。
彼女をドライブに誘うも失敗し、寂しいところに行きたくなった主人公が田舎の旧道を走っていると不思議なことが起こります。
クラシック車ばかりが走っている町、おそらく1923年にタイムスリップしてきたのでした。
停車しているうちにジョーダン・プレイボーイが盗まれた後、主人公は無事現在に帰ってきますがまたしても不思議なことが。

あらすじうまくまとまってませんが、すごく面白いです。
タイムトリップもののお約束のような展開かもしれませんし、「潮時」を読んだ後ってのもあるかもしれませんが、後半好きです。

死人のポケットの中には

居間の小さなデスクに向かって、トム・ベネクは二枚の薄紙と、やや厚手のトップ・シートを一枚、カーボン紙を間にサンドイッチにして、ポータブル・タイプライターに巻き込んだ。トップ・シークレットには『社内用便』と印刷してある。その真下に、彼は明日の日付をタイプした。それから、タイプライターの横に置いた、彼の手書きの文字が一面に書きこまれて折目のついた黄色の紙に、視線を走らせた。

妻と過ごせないことに罪悪感を感じながらも仕事を頑張る主人公。次の仕事のために様々なデータを黄色の紙に纏めていましたが、それが風に飛ばされて5ヤード ( ≒4.572メートル ) は離れた、隣のアパートのはでな角飾りに挟まってしまいます。
今までの努力の結晶を諦めきれない主人公は壁の出っ張りやレンガの引っ込みを伝って紙を取りにいくことにします。…十一階の窓の外へ。

大事なものに気付けて良かったねって話なんでしょうけど、死ぬほど怖い思いして最後ああなったら主人公と同じ行動は取れないです。

机の上にメモとか紙を置きっぱなしにしないことを決意しました。…部屋一階ですけども。
文鎮、かっこよく言うとペーパーウェイト?で風に飛ばされないようするのが楽でいいかもしれませんね。かっこいいのが欲しい


それぞれの話で色んな読後感がありました。微笑ましくなったり、納得したり、失敗に同情したり…
「盗まれた街」など、他の作品も読みたくなりました。

時間に関する話と、逃避願望の出てくる話が多かったです。恋愛物も少々。
時間絡みのSFが好みの方や、「あの頃はよかった」と思っている方。是非。